政策特集首脳会合だけじゃない「G20」 vol.7

気候変動の情報開示 トップランナーに躍り出た日本

一橋大学大学院伊藤邦雄特任教授が語るTCFDの可能性

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 「リーマンショックのように、世界経済を混乱に陥れる要因になる」。2015年のG20(主要20カ国・地域)財務大臣・中央銀行総裁会議は気候変動を経済リスクと捉え、世界の金融市場の秩序を守る「金融安定理事会(FSB)」に対応を求めた。結果、設けられたのが民間主導の「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」である。あれから4年-。世界の潮流に追随していたかに見える日本が、ここへきてTCFDの提言に基づく情報開示でトップランナーに躍り出ようとしている。日本が議長国を務める今回のG20会議は、そんな日本の姿を世界に発信する場となる。また、この秋には日本の取り組みを世界に発信する国際会議を開催予定だ。日本における取り組みを後押しする一橋大学大学院の伊藤邦雄特任教授は「日本の強みを世界に発信する好機」と話す。その理由とは-。

潜在リスクが引き起こす危機

 TCFDがG20の要請を受けて2015年12月に設立したことは広く知られていますが、歴史が動いたのはその3か月前にさかのぼります。当時、イングランド銀行総裁でFSB議長だったマーク・カーニー氏が英国ロイズ保険組合での講演で、気候変動問題の本質を捉えた講演を行っているのです。
 「気候変動の影響は食糧や水の安全保障に加え、政治的不安定性などに対して生じることが予想されていながら、なぜ問題解決の取り組みがもっと行われていないのか」と、金融機関が気候変動という潜在リスクに対応しないまま突如、これが顕在化し、金融システムに甚大な影響を及ぼすことに警鐘を鳴らしたのです。
 TCFDは2017年に統一的な情報開示のフレームワークを発表しました。しかし、分かりにくい部分もあります。とりわけ、将来の社会像を起点として、事業を継続するための戦略を立案し、これを開示する「シナリオ分析」はなかなか手強い概念です。気候変動関連の情報開示を求める国際的な潮流を踏まえ、日本からの情報発信を促すため、私が座長を務める経済産業省の研究会では、これを読み解くガイダンスを2018年末に策定しました。
 力点を置いたのは、気候変動リスク・機会が異なる業種ごとに望ましい戦略の示し方や開示ポイント、視点を解説したことです。この結果、産業界の取り組みは加速度的に広がりました。同時に政策的にも大きく舵が切られました。TCFDを、日本の強みを国際的に発信する機会と捉え、官民一体で対応する機運が高まったのです。

「サプライチェーン革命」が起こる

 実はこの5月、大きなトピックスがありました。TCFDの国別賛同機関数で、これまで第3位だった日本が一気に首位に躍り出たのです。周回遅れのようにみられていた日本の巻き返しは特筆すべきことでしょう。
 着目すべきは、件数の伸びだけではありません。数字の裏に大きな可能性を秘めているのです。それは非金融セクターの賛同数が多いという日本の特徴です。サプライチェーンへの波及効果が大きい製造業と、大企業だけでなく中堅・中小まで多様な規模の企業と取引がある金融機関が積極的にTCFDの趣旨に賛同していることで、見えてくる「地平」は格段に広がる。TCFDを通じて「サプライチェーン革命」が起こると感じています。

産業と金融の対話の場

 5月27日に発足した「TCFDコンソーシアム」は、情報を開示する側と、活用する側、つまり「産業と金融の対話の場」となります。TCFDをめぐっては、取り組みが広がる一方、課題もあります。日本企業は、当初から完璧な情報開示を目指す傾向がみられますが、必ずしもそうでなくても構わないのです。シナリオ分析の結果として、収益予想などを精緻かつ定量的に予測しなければならないと受け止められる向きもあるようですが、まずは定性的なシナリオ分析から始め、社内体制や機運が高まった段階で定量的な予測につなげていくアプローチも一策です。コンソーシアムでは、ベストプラクティスなどの情報共有や業種別ガイダンスの追加や改訂も進める予定です。

27日に開催されたTCFDコンソーシアム設立総会では日本のTCFD賛同機関数が162に上り世界首位となったことが明らかになった

 TCFDのマイケル・ブルームバーグ議長はこう指摘しています。100年後の議論をしていてもアクションにつながらない。むしろ、いまいかなる行動を起こすと経済的に成長できるのか、という機会の視点で気候変動に対するアクションを起こしていくべきだと。僕も全く同感です。イノベーションにつなげる成長志向の中で、各国と問題意識を共有し、日本が議論を主導することを期待します。(談)

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