政策特集社会課題に挑むイノベーション新潮流 vol.2

世界は変わる 世界を変える

イノベーションの担い手が語る産官学の「リアル」(後編)


 社会課題の解決に対応した「イノベーションエコシステム」をテーマとする今回の座談会。後編では、産官学の関係のこれからや、環境変化に対応した新たな政策手法についても話題は及んだ。

成否のカギは

 経済産業省 産業技術環境局総務課成果普及・連携室長 小宮恵理子(以下、小宮)
 産学連携の件数は増加傾向にあり、かつ特許活用も広がっています。産学連携は質・量ともに向上しており、近年では大学の中に企業が研究所を構えるなど、従来の産学連携を深化させた「産学融合」の新たな動きも進んできたと感じています。このような動きが、もっとダイナミックに起こるような仕掛けを作るのが国の仕事ではないかと思うのですが、企業と大学の「融合」がうまくいっているように思われるケースの共通点には、何を目指し研究開発を進めるのかというビジョンづくりから、企業と大学がじっくり話し合い、それを丸ごと共有し、これらに必要な技術シーズや人材育成などをパッケージにしてお互いにニーズを充足し合っていることがあるように感じます。皆さんの目にはどう映るのでしょうか。

 富士通 理事 CTO補佐 人事本部副本部長兼ダイバーシティ推進室長 梶原ゆみ子氏(以下、梶原)
 それは何事においても当てはまります。企業の組織運営でも明確なビジョン・目標があって、チームメンバーが腹落ちしている、つまり納得感があれば人間は能動的に動き能力を発揮します。同時にビジョンに共感した人材が集まってくる好循環が生まれます。単に「あれやりなさい」「これもやってね」では、組織の壁を越えた連携はおろか、チーム内の活力を引き出すこともできません。

ゴールはただひとつ

 小宮 すると「産学融合」のカギはどこにあるのでしょう。

 名古屋大学大学院理学研究科 佐々木成江准教授(以下、佐々木)
 狭い目標設定をすべきはないと思います。私が在籍するトランスフォーマティブ生命分子研究所は、世界を変えるような、生命に関わる機能分子を作る。ゴールはただ一点です。しかしアプローチは多様です。

 梶原 いまのお話で印象的なのは、「世界を変える」という意気込み、矜恃(きょうじ)ですよね。イノベーションは一人では起こせません。その思いを共有する人をいかに巻き込むかがポイントであり、それこそ「イノベーション・エコシステム」だと思います。

 小宮 今回の座談会をきっかけに、佐々木先生の研究室と富士通との「産学融合」が実現したりして(笑)。情報とバイオでは分野が違いすぎますか。

 佐々木 違うからこそ、可能性を秘めているんです。

 梶原 そうそう。

富士通の梶原理事(左)と名古屋大学の佐々木准教授

大学のパラダイムシフト

 経済産業省 産業技術環境局大学連携推進室室長補佐 徳弘雅世(以下、徳弘)
 大学のパラダイムシフトも必要だと感じています。テーマ設定や相乗効果をいかに発揮するかといった産学連携における課題はありますが、誤解を恐れずに言えば、企業が大学を作ってしまうぐらいの大胆な発想があってもいいのではないでしょうか。実際に、英ダイソンは未来のデザインエンジニアを育てるために大学を設立していますし、ソフトバンクもしかりです。また、文部科学省は現在、私立大学の学部を譲渡できる制度の導入を検討しており、制度を応用すれば、企業立の大学も設置しやすい環境になってくるのではないかと考えています。

経済産業省の徳弘氏


 佐々木 博士課程に進み、研究に打ち込んだ人材を、社会でどう生かしイノベーションにつなげていくかも、とりわけ生命科学の分野では大きな課題です。ここ最近、私たちの研究室の2名の若手研究者が、科学技術振興機構(JST)のイノベーション創出に関わるプログラムにそれぞれ採択されました。しかし、二人とも非常に優秀であるにも関わらず、大学内にポストがないため、このままでは支援を受ける資格がないという問題に直面しました。いわゆるポスドク問題です。工学部系ではあまりこうした現象が見られないようなのですが、研究ペースの違いや産学間の人材の流動性の問題が背景にあるようです。

 梶原 産学連携、産学融合の意義が叫ばれますが、学部や学科によってさまざまな事情を抱えているわけですね。政府は柔軟に制度を見直していく必要があるのでは。

 小宮 イノベーションのあり方は分野によって異なる面があるので、分野ごとの施策の検討も必要ではないかと思います。AIやIoTなどの領域では、異分野との連携は必須で、例えばエンジニアリングなどの専門分野に加え、ITやデザイン思考も必要ですよね。さらに言えばアジャイル型でオープンに開発を進めているものも多く、施策立案においても、柔軟性やスピード感が一層求められてきていると感じます。

施策立案に新たな発想を

 梶原 私たちも、仕様を決めて工程通りに作業を進める「ウォーターフォール型」の開発に長らく携わってきましたが、変化の激しいいま、開発を短期のサイクルで回し、現場の実情に合わせ機能を追加、改善していく「アジャイル型」が広がっています。政策手法においてもこうした発想転換が必要かもしれませんね。

 小宮 率直に言って、アジャイルな研究開発と政府のフレームワークの親和性はあまり良くないですよね。政府の施策は目標に向けて、リニアにアウトプットを出すことが求められますし、そもそも予算は原則、年に1回しか編成されないので、アジャイルな対応が難しいと感じることもあります。ただ、できることからスピード感を持って取り組んでいくことは可能だと思っています。いずれにせよ、今回の委員会(産業構造審議会 産業技術環境分科会 研究開発・イノベーション小委員会)でしっかり議論して、2025年、2050年に向けて、世界や社会はどう変化し、その中で日本の産業はどうやって競争力を維持、生み出し社会課題を解決していくのか、日本全体の将来ビジョンを描き、それに基づいて日本のリソースを戦略的に投資していく流れを作るのが重要と感じています。
【関連情報】
研究開発・イノベーション小委員会

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