政策特集知財で未来を切り拓こう vol.3

中小企業の知財活用 地域金融機関が後押し

リレバンの新たなカタチ「知財金融」の可能性

山古志本舗代表の石田良子さん。丁寧に作られた食材を求めて訪れる人が絶えない(埼玉県和光市)

 金融機関が中小企業の持つ知的財産を切り口に、取引先との関係強化や経営支援につなげる-。「知財金融」と呼ばれるこうした取り組みは、リレーショナルバンキング(地域密着型金融)の新たな形といえるだろう。知財の目利き力を養い、取引先の成長戦略を後押しする動きが広がっている。

販路拡大に効果発揮

 2018年12月中旬。「山古志本舗」を運営する山西商事(埼玉県和光市)代表取締役の石田良子さんの手元に出願中の商標が登録できることを示す書面が届いた。
 石田さんが、ふるさとの新潟県山古志村(現・長岡市)の恵まれた自然環境で育まれた「たねすはら米」や、これを原料とする食材の魅力を全国に発信したいと創業したのは、2011年。アンテナショップやネット販売を通じ顧客をつかみ、2020年には羽田空港国際線ターミナル隣接地に開業予定の大型ホテルへの出店も決まった。そんな石田さんが実感するのが知財の「効用」。百貨店や鉄道事業者、デベロッパーなど大手企業との事業機会が増える中、模倣品対策も含め、自社商品が適切に権利保護されていることをアピールすることは販路拡大において大きな意味を持つことを身をもって経験しているからだ。
 「甘酒を本格的に市場投入するならそれについても商標登録を検討すべきです。空港ホテルに出店するなら海外での権利の取得も必要になりますね」。
 商標登録の通知を受け取ったばかりの石田さんとともに、次なる展開への「作戦」を練っていたのは巣鴨信用金庫の担当者。すがも事業創造センター(S-biz)の皆藤剛課長は「知財を通じて新たなビジネスモデルを経営者と『共創』する」が信念だ。山古志村には米だけでなく、アジアでの愛好者が多い錦鯉の産地としても知られる。そんな地域の魅力そのものを「山古志ブランド」として発信したいと考える石田さんの思いに、皆藤さんは地域名と地域特産品名からなる商標「地域団体商標」を活用して応えられないか目下、模索中だ。

新たな展開について山古志本舗の石田さん(写真右)と「作戦」を練る巣鴨信用金庫の担当者。左が皆藤さん

「ビジネス評価書」通じ目利き力養う

 こうした知財を切り口とした経営支援を実践する突破口となるのが、専門家の力を借りて知的財産の有望性を評価し、融資の判断材料や経営支援につなげる「知財ビジネス評価書」である。特許庁の「中小企業知財金融促進事業」で導入され、金融機関が特許庁に申請すると、調査会社の作成した評価書が提供される。金融機関はこの評価書を財務データなどとともに、融資の判断材料として活用。知財を担保にその枠内で融資するのではなく、知財を活用した事業の成長性を分析し、ニューマネーを供給する。
 2014年度の制度開始以来、同評価書を利用した地域金融機関数は200を超え、地域金融機関全体の半数弱に上る。2019年度からは取引先のビジネスを「評価」するにとどまらず、より具体的な事業の「提案」につなげることを目指す新制度がスタートする。金融機関が「知財ビジネス提案書」を活用することで、「知財に着目した経営支援のための提案力」強化を推進する狙いだ。
 2018年11月。福島県いわき市内に拠点を構える金融機関関係者が一堂に会した。特許庁が全国各地で開催する知財金融セミナーの一環である。企業にとっての強みを、知財を切り口に分析することで、決算書から読み解く以上の可能性や経営者とのコミュニケーションや成長支援にどう取り組むか。会場では、講師の話に熱心に耳を傾ける関係者の姿がみられた。

福島県いわき市で開催された知財金融セミナー(2018 年11月)

経営者の「思い」つなぐ

 貸出金利の低迷で、厳しい収益環境にさらされる金融機関にとって取引先との長期的な関係構築は喫緊の課題だ。知財を評価する目利き力を高め、本業支援につなげれば、製品開発や増産投資など結果的にめぐりめぐって融資機会が増える。
 一方の中小企業の知財意識も高まっている。中小企業による特許や商標の出願件数は増加傾向にあり、経営者自ら専門家の助言を仰ぐケースも珍しくない。ただ、独自技術やアイディアをどのようなビジネスモデルで実現するのか、ひいてはどんな経営を目指すのか。明確なビジョンを伴った知財戦略でなければ、特許や商標権取得という「手段」が「目的化」してしまう。取引先との日常的な接点が深い地域金融機関は、経営者の「思い」と実務面から知財戦略を後押しする専門家をつなぐ役割も期待される。
 前出の皆藤さんは「経営者の発想の裏には少なからず知財が眠っている」とした上でこう語る。「その発想に光を当て成長のスパイラルを作り上げる過程では、一体感や感動が生まれます。これをお取引先と分かち合えることにやりがいを感じています」。

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