政策特集日本から世界へ~スタートアップ新潮流 vol.3

世界に通用するロールモデルの創出目指して

変革迫られるのはスタートアップだけじゃない

J-Startupプログラムの開始にあたり開催されたローンチセレモニーの様子(中央が世耕弘成経産相)

 2018年6月-。フリーマーケットアプリのメルカリが東証マザーズに上場した。同社はユニコーン(時価総額10億ドル以上の非上場企業)と評されてきた注目企業。「次のメルカリはどこだ」。市場関係者の期待は高まる。
 時を同じくして動きだした経済産業省のプログラム「J-Startup」。その目的は、「世界で戦い、勝てるスタートアップを生み出し、革新的な技術やビジネスモデルで世界に新たな価値を提供する」こと。約1万社のスタートアップの中から、スタートアップ・エコシステムを取り巻く66名の推薦委員が特に可能性を秘めた92社を「J-Startup企業」と選定。政府だけでなく、大企業やベンチャーキャピタル(VC)などが構築するコミュニティーを通じて、官民で集中支援する仕組みだ。「J-Startup」ブランドとして国内外企業や投資家への認知度向上にも努め、資金調達や事業提携につなげる効果も期待される。
 政府が率先して進めるのは、政府調達にスタートアップが参加できるよう入札参加の門戸を広げることや、規制要望への対応など、実績に乏しいスタートアップの事業環境整備と海外展開支援である。

海外イベントに相次ぎ参加

 フランス・パリ市内にある「ステーションF」。米フェイスブックも間借りし、起業家の発掘にあたることでも知られる、この世界最大規模の巨大ベンチャー育成施設に今夏、日本のスタートアップの姿があった。「J-Startupプログラム」に基づく海外展開支援の一環として、海外進出に意欲を示す日本企業とフランス側の関係者による交流の場を創出。これに先駆けて行われた政府間対話では今後、各国で予定されるイベントに両国のスタートアップ企業を相互派遣する方針も確認された。

海外展開支援の第一弾として日仏共同で開催したイベント(2018年7月、パリ)

 J-Startup企業は、2018年、フランス以外にも、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された中東最大規模のスタートアップ見本市「GITEX FUTURE STARS」、スタートアップをテーマに世界7万人が集まる「web summit」(ポルトガル・リスボン)、「SLUSH」(フィンランド・ヘルシンキ)といったスタートアップ関連イベントに相次ぎ参加。「J-Startup」ブースを構え、日本の革新性をアピールしてきた。

リスボンで開催された「web summit」では「J-Startup」ブース(写真右手前)と個別企業ブース(同左奥)を設けた(2018年11月)

 それにしても、いまの日本になぜ、世界展開を目指すスケールの大きなスタートアップの存在が必要なのかー。米国や中国を見回してみればいい。
 デジタル技術をテコに新興企業が次々生まれ、グローバル展開を果たしながら、例えばファーウェイ(華為集団)のように、既存の大企業の存在を脅かすまでに成長し産業構造さえ変えようとしている。一方、日本では、新たな技術やサービスで急成長を遂げる企業が生まれつつあるものの、ユニコーンの数や規模感では世界で見劣りする。起業に挑む人が少なく、世界展開を目指すスケールの大きなスタートアップが少ない背景として、「ロールモデルの不在」を指摘する声もある。加えて、「日本は幅広いビジネスの領域で一定規模の市場規模があり、積極的な投資を通じた世界展開をしなくても株式市場に上場することもできた。つまり『ユニコーン』でなくとも、十分な成長の果実を得られてきた」。ニッセイ基礎研究所の中村洋介主任研究員はこう分析する。
 しかし、時代は変わった。巨大なITプラットフォーマーが世界を席巻するいま、グローバルな視点と機動力がなければ、熾烈な競争は勝ち抜けない。

「摩擦熱」が日本を変える

 世界で繰り広げられるイノベーション創出競争ー。それは、過去の成功体験に縛られた大企業にも変革を迫る。革新的なアイディアが生まれにくい組織風土、リスクが高い案件に挑戦するモチベーションが保てない、経営判断に時間がかかりすぎるー。こうした現状を打破しない限り、新たな価値創造は実現しえないだろう。

J-Startup企業の経営者と語り合う経団連の中西宏明会長(2018年11月、都内)

 「いかにネットワークを作り広げていくかは、スタートアップであろうと大企業であろうと共通の課題」。こう語るのは経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)。
 中西会長は、「過去の日本企業は、高いアンテナを持って自分自身の価値観を確立していく人材を育てるカルチャーは欠落していた」と指摘した上で、「それは日立製作所にとっても根本問題」との認識を示す。11月下旬に都内で開催された経団連とJ-Startup企業との懇談会では、若い経営者らを前に「大企業、経団連といった枠を超え、人のネットワークをいかに膨らますかが日本経済の活力そのものにつながる」と力説。価値創造に向けた活発な交流に意欲を示した。
 新たな交流がもたらすイノベーションの可能性。世耕弘成経済産業大臣はこんな言葉で表現する。「大企業とスタートアップとの『摩擦熱』の中から日本を変える何かが生まれるだろう」。

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