地域未来

航空機の電動化に挑むアスター

秋田に新たな産業創出 その原動力に

Pocket
LINEで送る

建設中の「ASTコイル」の量産工場(完成イメージ)

 自動車用部品や融雪シート、LED照明などを製造販売するアスター。環境負荷を低減する次世代技術としていま、さまざまな業界から注目されるのが高性能コイル「ASTコイル」である。通常のモーターでは約10アンペアで9000回転するのが一般的であるのに対し、ASTコイルは半分の電流でこれを実現。量産化へ向け、新工場の建設が着々と進む。

新市場に挑む

本郷武延社長

 同社の設立は2010年。もともとは福島県にあった別の企業の秋田工場だったが、リーマンショックによる業績悪化で工場閉鎖を余儀なくされた。当時、同工場長だった本郷武延社長は、従業員の雇用を守るために工場を引き継ぎ、現在のアスターを設立した経緯がある。
 新会社として発足前の工場は、主に電気設備関連の業務を手がけていたが、本郷氏が目指したのは全く別の事業。生活に欠かせない衣・食・住に加えて「『動』が重要な要素だと考えていた」(本郷社長)とあって、複数の部品を接合させる「カシメ接合」などこれまで培ってきた技術を武器に自動車分野に打って出た。
 トヨタ自動車の高級ブランド「レクサス」の部品製造の一部を受注するなど成果に手応えを感じる一方で、自ら市場を創出することへの意欲が芽生え、雪国ならではの雪対策のための電熱シートや、LED照明などさまざまな製品を開発し、事業化を模索する日々が続いた。

震災機に省エネに着目

 そんな中で発生した東日本大震災。電力供給が危機に瀕するなか、同社が着目したのがモーターの効率向上を通じた省エネだ。モーターの効率には、コイルの「占積率」が大きく関わっているが、従来の丸線コイルの占有率は55%程度。モーターコアの形状に合わせてコイルを台形にすることで、占積率90%以上にまで高密度化。高効率・小型化のモーターコイル「ASTコイル」の開発に成功した。背景には、前述のカシメ接合を生かした独自の積層技術がある。
 モーターに組み込んだ際の性能は、従来製品に比べ2分の1程度に小型化しつつも出力を1・5―2倍に引き上げられるという。現在は3倍以上の出力を目指して改良を進めている。
他方、頭を悩ませたのはコイルには欠かせない絶縁被膜の工程だ。畑違いの分野であることから当初は外注も考えたが、品質保証の観点から内製化を決断した。
 そしていま-。こうして誕生した独自製品の量産化を目前に控える。現在、ASTコイルの専用工場の1期工事に着手。横手第2工業団地(秋田県横手市)に、約4万平方メートルの敷地を取得し、19年6月に完成予定だ。
 約50億円の総工費は、同社にとって決して軽くはない負担だ。地元金融機関からの協調融資のほか、秋田県などからの補助金も活用。全体で3期工事まで予定しており、21―22年度までには工場2棟、社屋1棟を建設する計画だ。数年以内には、平鹿町にある現本社も同社屋に移転する。

連携生み出す

 「世界にないものを作る」(本郷社長)との思いは、県内外で多くの人を巻き込み、新たな産業創出を目指す秋田県の産業振興策とも密接に関わっている。
 2018年6月に設立されたアキタ・リサーチ・イニシアチブ(ARI)」-。秋田大学と秋田県立大学の研究者有志が集まって、航空機システムの電動化へ向けた開発に取り組むものだ。県内企業と連携し、航空機産業に携わる人材を育成する。アスターはその設立に深く関わってきた。
航空機の二酸化炭素(CO2)排出削減は世界的な課題となっている。一方で、ハイブリッドや電気自動車(EV)用として培われたバッテリーやインバーター、そしてモーターの性能は飛躍的に向上。これら技術は小型電動航空機に適用可能なレベルになりつつあり、オールジャパンでの研究開発も進む注目分野だ。
 ARIの取り組みでは、地元企業が集まる「秋田試作事業組合」も組織。電動化に必要な技術開発や試作面などで連携する。アスターは同組合の幹事社として中核的な役割も担っている。
 「ASTコイルは、あらゆるジェネレーターやモーターが対象となる」と展望する本郷社長。航空機の電動化のみならず、電気自動車、発電設備などを含めて将来は「10兆円以上の市場が見込める」と展望する。目指すのは、このうち1%以上のシェア獲得と語るが、それでも1000億円のビッグビジネスだ。
 同社の挑戦は、新たな産業創出を目指す地域経済の成長戦略に直結する。まさに地域未来を牽引する企業である。

【企業情報】▽所在地=秋田県横手市平鹿町浅舞字道川北18の3▽社長=本郷武延氏▽創業=2010年1月▽売上高=3億1000万円(18年3月期)

コンシェルジュの目

 【東北経済産業局 千葉雅幸氏】

 記事にあるように、アスターはまさに「地域の未来と経済を牽引する企業」です。蛍光灯がLEDに置き換わったように、家電、自動車、航空機などのあらゆる電動モーターがASTコイルに置き換わり、日本だけでなく世界をも席巻する日もそう遠くはないのではないでしょうか。新工場に対する地元金融機関からの協調融資、秋田県及び横手市の補助金などの地域一丸となったバックアップ体制は、秋田県横手市から画期的なイノベーションを起こしていくポテンシャルに対する地域の大きな期待の表れだと思います。秋田県及び横手市の補助金については、地域未来投資促進法と連携した地方創生推進交付金により、地域経済への波及効果をもたらす個別事業者の設備投資に対するものとして活用を頂きました。
 東北経済産業局では、引き続き、アスターのような地域経済を牽引する企業の成長をサポートし、東北の稼ぐ力を強化してまいります。(談)

Pocket
LINEで送る

記事が気に入ったらいいねしてください! METI Journalの最新情報をお届けします!