政策特集「デジタルファースト」で社会が変わる vol.7

行政はプラットフォーム化し、新たな担い手が育つ

中小企業庁前田泰宏次長が描く未来

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 経済産業省が挑むデジタル前提の行政改革-。その先にどんな未来を描くのか。最終回は、中小企業庁の前田泰宏次長にデジタルトランスフォーメーションに寄せる思いを聞いた。

3つの逆転に挑む

 -国民や企業にとって利便性の高い行政サービスや業務効率化を目指し経産省が進めるデジタルトランスフォーメーション(DX)。実動部隊として発足したDX室には民間からITの専門家を登用したり、アジャイル開発を進めるなど従来とは異なる手法で取り組んでいるそうですね。
 「『三つの逆転』を目指しています。まずは、『申請者と行政の関係』です。これまでは行政サービスの利用者側が必要な書類を取りそろえたり、窓口に出向いたりしなければなりませんでした。今後は添付書類を徹底的になくし、行政サービスが申請者の事情に合わせます。いわば、申請者と行政の負担感が逆になるということです。また、『制度とシステム』の関係も逆にします。複雑化した制度に合わせたシステム開発は、屋上屋を架すようなもので非効率なため、制度をシステムに合わせるよう見直さねばなりません。さらに行政サービスの申請情報を、施策の分析や立案に有効活用する『フローからストック』への発想の転換も必要です。DX室が中心となって進める一連の改革では、この三つを徹底的に追求します」

過去の施策に「けり」をつける

 -行政手続きの電子化をめぐっては、過去にもさまざまな構想や計画が打ち出されてきました。前田さんは2001年に打ち出された「e-Japan戦略」にも携わってこられたそうですが、当時との違いは。今回は何が変わるのですか。
 「『何が変わるか』よりも、今回のデジタルトランスフォーメーションは、過去の施策の不徹底さに『けりをつける』ということです。行政サービスの利便性向上や高度な政策立案といった理念そのものは当時と大きく変わっていません。ただ、かけ声だけでは進まない。いくらトップが構想を打ち立てても、現場にとって慣れ親しんだ業務の進め方や開発手法から脱却することは容易ではありません。こうした構造を打開し実効性を担保するには、やるべきことをコミットメントとして掲げ、アクションプランやスケジュールに落とし込む、といった現場レベルでの細部の詰めが肝要です」
 -背景にはデジタル技術の進展もあるのでは。
 「AI(人工知能)によるデータ分析やディープラーニング(深層学習)といった手法は確かに当時は、一般的ではありませんでしたが、技術そのものよりも、技術を用いてどうアプローチするかが重要なのです。『e-Japan』の時は、年間数百件もの申請がある制度と、数件しかない制度を一律に電子化しようとした反省もあります。ITバブルの興奮もあったのでしょうが、リーダーシップを発揮して何とかなる、というのは妄想ですね」

 -そしていま。デジタルトランスフォーメーションは社会をどう変えるのでしょうか。
 「経済産業省がまず進めるのは、ひとつのサイトに行けば手続きが完了する『ワンストップ』や、一度提出した情報は再び記載する必要がない『ワンスオンリー』ですが、利便性向上や効率化だけが目標ではありません。国民と行政の間のコミュニケーションを、どう再設計するかという視点から、デジタル革命を捉えています」

多様な主体が協働する社会へ

 -どういうことですか。
 「データ連携によって、官民の接点が広がれば、これまで公共サービスとされてきた領域に、企業やNPOといった新たな担い手の参画を促す効果が期待されるからです。行政のプラットフォームと民間が提供するさまざまなサービスが有機的につながり、生活に密着した質の高い公共サービスが実現できます。つまり行政はプラットフォーム化していくのです。こうした発想はデンマークやエストニアといった国々がすでに具現化していますが、少子高齢化に直面する日本にとっても、多様な主体が協働する社会の実現は喫緊の課題です」
 「とりわけ、財政事情が厳しさを増す自治体にとっては、合併によって行政機能の維持を目指す動きが広がることが予想されます。しかし、単に行政単位を拡大するだけでは、住民サービスの質の低下を招くとともにバックヤードへの業務負荷が増すことが懸念されます。だからこそ、行政の専管だった公共サービス分野に新たな担い手を育てる視点が重要なのです」
 -これを実現するひとつが、デジタルトランスフォーメーションですか。
 「そうです。デジタル前提の行政改革に向けて、まずは中小企業政策で、未来の行政のあり方を先取りするようなサービスを打ち出したいと考えています」

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