METI Journal

経産省

コネクテッド インダストリーズ Vol.8

絶対に見逃してはいけない、セキュリティ対策&知財保護

その傾向と対策、これからの施策を注視せよ

 コネクテッドインダストリーズの実現に向け社会横断的な課題がある。中でも今回は、サイバーセキュリティ対策と知的財産権の保護について考えてみたい。

 経済産業省が先日発表した「新産業構造ビジョン」。サイバーセキュリティ対策につながる投資を促進する施策を検討するとしている。ここからは、IoT(モノのインターネット)の普及により様々なモノがつながる中で、サイバーセキュリティ対策の強化がデータ利活用の前提条件になるとの課題認識が読み取れる。

日本企業の認識遅れ

 イノベーション問題に詳しい齋藤ウィリアム浩幸氏(インテカー社長)も危機感が強い。齋藤氏は米国生まれの日系2世の起業家で、指紋認証などの生体認証暗号システムを事業化し、米マイクロソフトに会社を売却し今では投資家としてだけでなく、セキュリティの専門家でもある。

 『IoTは日本企業への警告である』など、IoT関連の著書も手がけた齋藤氏からすると、IoTに対する日本企業の認識の遅れが目につくという。

「つなげる」だけでない

 まず、挙げるのがIoTは単に機器をネットワークでつなげば良いというものではないこと。「大事なのは付加価値をどうやって付けるかという点で、そのためには発想やビジネスモデルを変えていく必要がある。インターネットにモノをつなげばいいというのは、5年前の話だ」(齋藤氏)と注意を促す。

 もちろん、セキュリティも欠かせない大事な要素。「IoTは安全・安心を大前提にした『インターネット・オブ・セキュア・シングズ』、つまり『IoST』でなければ成立しない」と強調する。逆に、セキュリティの部分をしっかり担保すれば、指紋認証と非接触ICカードの技術を組み合わせ、指紋で一瞬のうちに買い物ができるようにしたアップルの「iPhone7」のように、利便性が格段に向上し、製品の付加価値や差別化につながるとする。

カギとなるソフトウエア

 ここでカギとなるのがソフトウエアだ。日本では、半導体や部品で高い国際競争力を持つ企業が多数存在するものの、今の時代の付加価値はモノづくりからソフトウエアにどんどんシフトしてきている。

 「モノづくりでは日本が結構リードしたが、リードを失うのはソフトウエア段階で付加価値を出すとき。IoTでもソフトウエアが勝負という点が大きい」と齋藤氏。

 もちろん、ソフトウエアの重要性は日本企業もよく理解しているはず。とはいえ、「日本ではモノづくりがあまりにはまりすぎているため、見えない部分に弱いところがある。モノづくりは手で触れられるのに対し、ソフトウエアは目に見えないためか日本では妙に価値が低い。ハードウエアで付加価値を上げるのがだんだん難しくなっている中、ソフトウエアに価値があると理解していないのは、これからの競争で非常に不利になる」。

 少子高齢社会の日本は、人工知能(AI)やロボットとともに、IoTが産業活性化の切り札になる可能性が高い。日本が強みを持つハードウエアを基軸に据えながらも、セキュリティや付加価値、そしてソフトウエアの部分に知恵を絞っていけば、少子高齢社会のハンディを乗り越え、世界に広く受け入れられるIoTのシステムやビジネスモデルを生み出していけるかもしれない。

動き出した知財保護のルール整備

 一方、知的財産を保護するルール整備もコネクテッドインダストリーズの実現に不可欠。安心してデータをつくり、集め、分析、交換できる環境がなければ企業はリスクを恐れてイノベーションを躊躇し、結果として欧米に先を越されかねない。

 そこで、経産省は2016年12月から産業構造審議会 知的財産分科会 「営業秘密の保護・活用に関する小委員会」において、安心してデータをやり取りできる環境を整備するため、データの不正取得の禁止等について検討を進め、2017年5月に中間とりまとめを行った。今後はさらに検討を加速させ、不正競争防止法の改正に向けた詳細な制度設計を行っていく。

AIが発明した創作物は誰のもの?

 「人工知能(AI)が発明した創作物は誰のもの?」「3Dプリンターで発明品を複製されたけど三次元データの作成者を訴えられるの?」-。

 さまざまなつながりにより新たな付加価値を創出するコネクテッドインダストリーズ時代の到来。IoT、AI、ビッグデータに代表される技術革新が産業社会の礎となり、データと分析技術、それを生かしたビジネスモデルが新たな企業競争力の源泉だ。

 そこで経産省、特許庁は2016年10月に省内横断の「第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方に関する検討会」を立ち上げ、今年4月に報告書をまとめた。

AIが人間をはるかに上回る効率でコンテンツを量産すると市場を壊すリスクもある
AIが人間をはるかに上回る効率でコンテンツを量産すると市場を壊すリスクもある

現時点で人間に権利

 現時点でAIは、人間から学習指示や創作指示を受けるなど、人間の関与がなければ創作できない。したがって、創作過程にAIが活用されていても、創作に関与した人間に権利が与えられる。

 また、3Dプリンター用のデータは、特定のデータ構造の存在等を条件として、産業財産権法上の保護の対象なり、そのデータは、複数元の物品の産業財産権を間接侵害しうる。いずれも現時点では現行の法律で対応し、今後の動向を注視する。

 コネクテッドインダストリーズでは、例えば無人走行車の配車システムといったICT(情報通信技術)により「ハード」と「ソフト」を高度に融合したビジネスが生まれるだろう。特許庁はIoT審査に関する専門組織を発足し、世界に先駆けてIoT技術を抽出する分野横断的な特許分類も新設するなど対応を急ぐ。

現時点でAIが活用されていても、創作に関与した人間に権利が与えられる
現時点でAIが活用されていても、創作に関与した人間に権利が与えられる

IoTの特許出願広がる

 すでにサービスとモノを結びつけたビジネス関連発明の特許出願は広がっている。特許庁の2016年度特許出願技術動向調査によると、センシング及び送信機能を備えるIoT関連技術のうち、複数分野にまたがる技術についての特許出願件数は、「自動車と保守サービス」の組み合わせが4199件で最も多く、次いで「自動車と道路交通システム」が2622件、「自動車とヘルスケア」が2507件にのぼった。

 一方、工場や機械、サービスなどが相互につながると、権利関係が入り組み知財紛争が増える公算が大きい。裁判による解決は費用や時間、人的資源の負担が重く、秘密の確保なども課題。中小企業は知財紛争に対応するための経営資源やノウハウにも乏しく、模倣品被害に対しては8割弱が訴訟提起を見送る。

脅威となる「特許の怪物」

 併せて問題になるのがパテント・トロール(特許の怪物)だ。企業や発明家から特許を買いあさり、訴訟提起をちらつかせて法外なライセンス料の支払いを求めてくる。米国ではパテント・トロールが跋扈し、社会問題となっている。

 日本国内では、損害賠償金額がそれほど高くないため目立った動きはないが、いつ「怪物」の標的にされるかは分からない。コネクテッドインダストリーズがもたらす産業社会に不可欠な特許をパテント・トロールが握り、多額の損害賠償訴訟を仕掛けてきたらどうすれば良いか。

 特許庁はパテント・トロールによる権利濫用行為のうち、社会的に影響が大きい標準必須特許については、裁判とは別に標準必須特許裁定制度を通じて適正なライセンス条件を決定する仕組みを設ける。中小企業が標的にされても、迅速、簡便な手続きで紛争解決に導く。

法改正をにらむ

 経産省、特許庁は今後、「知財」×「データ」×「標準」の三次元的な複合戦略でコネクテッドインダストリーズ時代における日本企業の勝ち筋を後押しする。次期通常国会には標準必須特許裁定制度の導入を見据えた特許法改正案、データ不正取得を禁ずる不正競争防止法改正案などを提出し、つながる社会の知財システムを盤石にしていく方針だ。

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