政策特集チェンジ・メイカーを育てる 『未来の教室』 vol5

己と向き合え、世界とつながれ

経済同友会小林喜光代表幹事が語るデジタル時代の教育論

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 データとAI(人工知能)を軸に進む第4次産業革命―。「与えられた仕事をこなす」労働から人間を解き放つ一方、人知のみでは解析不能な複雑な事象に対処できる可能性を飛躍的に高める。AIが人間の能力を超えるとされる2045年のシンギュラリティ(技術的特異点)を見据え、「今から日本の大変革にめどをつけなければならない」が持論の経済同友会の小林喜光代表幹事。イノベーションの担い手に問われるのは「本質を洞察する哲学的思考と世界とつながるコミュニケーション力」と語る。経済界の視点から教育改革への期待、持つべき視点を語ってもらった。

問われる個の力

 ―グローバル化やIT化、ソーシャル化といった時代の変化に対応した人材を、これからどう育てていくべきですか。
 「デジタル時代は、個の力が厳しく問われてくる。それはある意味、残酷なまでに―。日本はこれまで決められたことを手順通りにこなせる人材を大量に輩出し、高度経済成長を実現してきたが、これからは違う。知識をベースにしないと戦えない。アナログ時代とデジタル時代で求められる能力は全く異質のものだ」
 

   

 「データ所有が国家戦略を左右するほどのインパクトをもたらしつつある現実をまず直視するべきだ。GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)と呼ばれる巨大プラットフォーマーに対し、データ主権を取り戻そうとするEU(欧州連合)。他方、中国は情報統制を強めている。データを持つ者がAIで社会を支配するデジタル専制主義、あるいはデータイズムの中、AIにはできないが人間だけができることは何か。そもそも自分は何のために存在するのか―。己と向き合い、物事の『本質』を洞察する姿勢がイノベーションの第一歩ではなかろうか」

「何のために生きるのか」

 ―哲学ですね。
 「そう。これからの教育の根幹となるのは、哲学的思考を養う力と、グローバルに個人として、あるいは組織としてネットワークを構築できるコミュニケーション力の二つと考える」 

 ―まさに小林さんは「何のために生きているのか」と思索を重ね、果てはイスラエルに留学されたとか。そのイスラエルは、科学技術や数学に力を入れるSTEM教育で知られます。
 「当時(1972年から1973年)のイスラエルは、第4次中東戦争の直前で、ファントム戦闘機が飛び交っていた。3億人のアラブ人に囲まれ、周辺諸国との高い緊張の中で暮らす300万のユダヤの民が生き抜く術は頭脳であり、優秀な学生は早くから選抜教育を受ける。こうした人材が精鋭部隊『8200』などでの兵役後、高度なサイバー技術を用いた起業でイノベーションを生み出している」

   

 ―徹底したエリート教育を施すこうした国々と日本は伍していけるのでしょうか。
 「民族としての長い歴史を背景に、特殊な状況下で生きる彼らとは大きく異なる環境下にあるとはいえ、日本の教育に色濃い『平均的に伸ばす』姿勢はそろそろ見直すべきではなかろうか。『勝ちたい』という思いは人間の本性として備わっているはずだ。機会の平等は大切だが、結果まで平等では、社会を牽引するリーダーは生まれない」

「1」を「100」にする力

 ―これからの教育に必要な要素として、哲学的思考と並んでコミュニケーション力を重視するのはなぜですか。
 「ゼロから1を生み出すのがサイエンスであるのに対し、エンジニアリングは1の価値を100に高める学問領域。既存の事実を融合してイノベーションを生み出すエンジニアリングは日本人が得意とする世界だ。これは、国内外さまざまな人との接点を持ちオープンイノベーションを推進する過程で加速すると考えるからだ。社会の変化がこれだけめまぐるしいなか、研究者といえども、象牙の塔に閉じこもって試験管を振ってセレンディピティ(幸運な偶然)を期待するような時間的余裕はないはずだ」

    

 ―教育現場にITを導入するEdTech(エドテック)の可能性をどこに見いだしますか。
 「基礎学習の習得を効率化することで、新たに生まれた時間は、自己と向き合い、考え抜く姿勢を育むというコンセプトには共感できる」

 ―詰め込み型や、常識を疑うことにあまり重きが置かれないこれまでの教育では、主体性も養われないと。
 「いま非常に気がかりなのは、今さえよければ、自分さえよければといった空気がまん延していること。財政の持続可能性にしても環境・エネルギー問題にしても、国のあり方や未来を考える当事者意識、参加意識が世代を問わず希薄と感じる。自分なりの目線で中長期的に物事を捉える訓練ができていないからではないか。大学の入試問題も大幅に、早急に変更すべきだと思う」

時代に対する感性が必要

―経済産業省は未来社会に求められる人材像を「今の社会からの要求に応える力」以上に、「自分なりの問いを自分なりのやり方で、自分なりの答えにたどり着く探求する力」と定め、教育改革に挑んでいます。経済界が求める人材像と一致しますか。
 「教育のあり方に一石を投じる意味で評価できる。教育には時代に対する感性が絶対必要。経産省は霞ケ関の中で最も外に開かれた省庁であり、感性も高いはずだ。今後の施策展開に期待している」

 

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