METI Journal

経済産業省

人生100年時代 社会人のチカラ vol.6

一歩踏み出すと世界は変わる

NPO法人二枚目の名刺代表廣優樹さん

 名刺は組織における今の「あなた」を伝えている。しかし、あなたの世界はそれだけだろうか。社会とのつながりの中で、いくつもの「顔」を持っているはずだ。所属や立場を超えた交流が発火点となり、社会や人生に変化をもたらしたい―。廣優樹さんがこんな思いからNPO法人「二枚目の名刺」を立ち上げたのは9年前。「人生100年時代」や「パラレルキャリア」が叫ばれるいま、これまでにない変化を感じている。

NPOと社会人をつなぐ

 
 ―今でこそ、企業の外でも活躍できる社会感度の高い人材を育てる意義が叫ばれますが、廣さんが商社勤務の傍ら、活動を始めた当時は社会の受け止めも異なったのでは。
 「2009年当時、僕らのプロジェクトの参加者は、社会貢献への意識を持つとともに、会社での閉塞感を感じ始めていた若い世代が中心でした。ところが現在は、『人生100年時代』の影響か、『自分も仕事以外で何かできないか』と考える人が増えているように感じます。特に40代、50代が企業の中で積み上げてきたキャリアとは異なる可能性を追求する姿が目立ちます」
 ―社会人が本業以外の2枚目の名刺を持って活動し、自身の価値観やスキルを社会に還元する―。そんなスタイルを提案してきたそうですが、具体的にはどう活動しているのですか。
 「社会課題の解決に取り組むNPOと、これに関心を寄せる社会人をつなぐのが僕らの役割です。NPOの関係者を招いて活動内容や直面する課題について話をしてもらい、興味を持った社会人とプロジェクトチームを組成するといった流れです。内容はまちづくりや人材育成、途上国支援などさまざまで、これまで9年間で90件のプロジェクトを実施、延べ540人程度が参加してきました」

   
   

 ―「新しいこと」に踏み出す一歩にしてもらうんですね。
 「そうです。僕らの活動は、こうすべきという価値観を強制するものではなく、あくまでも自身で手を挙げて活動に参加し、そして社会に変化を生み出すとともに、自身の変化の『きっかけ』にしてもらうことが狙いです」
 ― 一歩を踏み出してもらう上で、社会性のあるテーマを選ぶのはなぜですか。
 「社会課題に向き合っているNPOなどのリーダーには、使命感や情熱がある。僕らも本来、それぞれが社会の中で成し遂げたい思い、会社などで実現したいことを持って入社したんだと思いますが、組織の色に染まる過程で、いつしか夢や情熱を押し殺し、そのうち、何がしたかったのか分からなくなっていく―。思いを貫くリーダーの姿に接することで、心の奥底にある思いや可能性を呼び覚ましてほしいと考えるからです」
 「また社会課題への挑戦では、正解のない課題に試行錯誤しながら立ち向かうことになります。前例やマニュアルに従い正解探しばかりするような組織への『過剰な適応』から抜け出し、自分の頭で考え、動き出すきっかけにもなるのです」

もっと面白い奴だったのに

 「同世代を見ても、入社から数年たつと皆、立派な会社人になっている。こいつもっと面白い奴だったのにともどかしさを感じることがあります。僕自身が飛び抜けて人と違う何かを持っているとは思いません。ただ、海外留学時代に会社の名前に頼らず、組織の枠を超えて取り組んだプロジェクトで、たくさんの失敗や予期せぬ出会いを経験したことが、自身に大きな変化をもたらしました。組織を『半歩』、あるいは『一歩』飛び出す『2枚目の名刺』は、『会社人』を『社会人』に変え、活躍の場を広げ、そして社会に面白いことを生み出す―。そんなサイクルを創り出す力を持っていると感じます」
 ―社員の社外活動に対する企業側の姿勢に変化は感じますか。
 「活動を始めた09年当時は、社外での活動に対し、今よりももっと『本業がおろそかになるのはけしからん』という雰囲気が色濃くありましたが、最近では一部の企業で社員を意識的に社外に出して、人材育成の場にしようという動きが出始めています。こうした変化の中で、社員が組織を超えて取り組む活動と、自社にとっての価値創造を一体どう結びつけたらいいのか迷っているのが率直な印象です」

廣さん自身の2枚目の名刺
廣さん自身の2枚目の名刺

 ―社員の自由な活動をどのような観点から後押しするか、企業側の解釈は各社各様だと思います。現状では、新たな価値創造、あるいはオープンイノベーションへの期待も大きいように感じます。
 「オープンイノベーションを一例に挙げれば、企業の枠を超えた事業連携は時間を要します。しかし、活動に興味がある人たちが、半歩前に踏み出して、共通目的の下に結集すれば、短期間で大きな成果を上げられることを実感しています。僕らは17年に東京・渋谷区で行政と企業、NPOが協業して『小学生の力で原宿の街を変えて行く』と題する『ソーシャルキッズアクションプロジェクト』を展開しました。子ども目線で街づくりを提案することが狙いです。短期間で具体化したプロジェクトにもかかわらず、企業も参画。協賛にもつながり、渋谷区の事業として継続されることも決まりました」

「会社」対「個人」ではない

 ―最初に結集した人たちは、企業や行政を代表して参加しているわけでない。アイデアに共感した『一個人』ですよね。
 「そこが重要なんです。会社を代表して参加しているわけではないが、組織に持ち帰って提案できる可能性も持つ―。そこが2枚目の名刺を持つ社会人の真骨頂だと思っています。これは『ビジネス』、ここからは『社員の社外活動』と硬直的に区分せず、個人が自分の世界と組織を行き来することを許容する柔軟さが企業にあっていい。新たな価値はこんな循環から生まれるのではないでしょうか」
 「企業が考えるべきは、社員の社外での活動をどのように制限するかということではなく、どうしたらその社員が社外で見つけたビジネスの種を会社に還元し、会社の価値創造につなげられるかになってきていると思います」
 ―商社勤務とNPOの活動。「二足のわらじ」は疲れませんか。4女の父でもあるとか。
 「僕にとって、活動の原動力は娘たちの存在です。彼女らが住む未来を創ることは今しかできないからこそ、『現状を変える変化を生み出したい』ということが、商社でもNPOでも自分の行動の軸になっています。この軸をもとにやっているので、やらされ感からくる疲労は感じないですね。いつか娘たちが大きくなった時に、『パパがやってきたことカッコいいね』と言われることができているかな、と自問自答しながらの日々です」
 
 【取材後記】
 自分らしく社会と関わりたいと考える個人。人材力で新たな価値創造を目指す企業-。目指す方向性が一致した時、双方にとって大きな成長につながるのではないだろうか。最終回は、「社会人基礎力」や「キャリア権」の生みの親でもある法政大学の諏訪康雄名誉教授(経産省人材力研究会座長)と、これからの個人と企業のあるべき姿について考えます。

 

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