METI Journal

経済産業省

コネクテッド インダストリーズ Vol.4

ヘルスケア・バイオ産業へのインパクト

新たなサービスや産業を見逃すな!

ウエアラブル端末により健康データを集める取り組みは多い(利用イメージ)
ウエアラブル端末により健康データを集める取り組みは多い(利用イメージ)

 IoT(モノのインターネット)技術が進展し、さまざまな製品やサービスが連携し、情報のやりとりができるようになってきた。ヘルスケア分野においても、経済産業省が中心となり、企業保険者が持つ個人の健康や医療情報を活用し、行動変容を促す仕組みづくりが本格化してきた。

質の高いデータが質の高い健康サービスに

 経済産業省は2017年度から、約2000人を対象に健康データの収集に乗り出す。ウェアラブル端末から情報を取得し、糖尿病軽症者を対象に重症化予防や改善を図る実証研究を行う。

 「基礎的なアルゴリズムを構築しながら、いずれは医療分野での使用に耐えられるAIを構築したい」―。経済産業省ヘルスケア産業課の江崎禎英課長は、将来的な構想を語る。

 質の高いデータを収集・活用することで、良質な健康関連サービスの開発や普及にも弾みが付く。

 毎日の糖尿病管理を七福神が伴走―。愛知県健康づくり振興事業団が代表団体となり、名古屋大学、日本オラクル、オムロンヘルスケアなど企業や大学でつくるコンソーシアム「チーム七福神」は、独自のアプリを開発し、糖尿病の診断指標である「HbA1c」が改善するかどうかを調べた。

糖尿病、自己管理意識を高める

 その際に、「糖尿病患者の歩数や体重、血圧等のデータを取得し、七福神キャラクターを通じて応援メッセージを発信した」(愛知県健康づくり振興事業団)という。

 実験では、「HbA1c」が6・5以上の軽症者に対し、食事や運動などに関する注意喚起を行った。その際に「七福神」からの応援メッセージなどを配信し、参加者のモチベーションアップにつなげた。

 結果、たとえば実験期間中投薬の状態に変化が無かった対象者では、事業開始時に「6・99」だった数値が3カ月後に「6・43」へ改善するなど成果があった。

 ウェアラブル端末等から取得した歩数や体重、血圧などを自動的にスマートフォンに転送するなど、本人が健康関連データをセルフモニタリングできることに加えて、1人1人の状態に応じたメッセージが届くことは、本人の自己管理意識を高め、行動変容を図る効果が期待できる。

 一方で、「IoTの活用による自己管理の仕組みは、どういった人に効果的なのか」に関する科学的なエビデンスを蓄積していくためには、継続的な実証も必要になりそうだ。

 たとえば対象者の職種や職場環境、通勤手段、介入の内容やタイミングなどの情報を追加して集められれば、活動量や行動傾向を詳細に分析することが期待できる。今後はどのようにして産業界に普及させるかが成功へのカギとなりそうだ。

ゲノム解読が生物の機能を最大限引き出す

 バイオ技術の進展も顕著だ。バイオ医薬品など治療効果の高い新薬がバイオの力で出始めている。特に人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などデジタル技術とつながることで、従来の産業構造を変革するような新しい価値を生む可能性を秘めている。

 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)と国立がん研究センター、東レなどは患者の血液を使って簡便にがんを診断する技術の開発を進めている。血液に含まれる核酸分子「マイクロRNA」を指標に解析を行うことで、がんの早期発見を可能とするにものだ。

 バイオ技術の進展の背景には技術の革新がある。かつて全遺伝情報(ゲノム)の解読には膨大な費用と時間がかかっていた。だが現在では1日、1000ドルで簡単に解読できるようになり、ITの進展やゲノム編集技術「クリスパーキャス」の登場などで、ゲノムの解読、解析、編集が容易になり、生物の機能を最大限引き出すことが可能になった。

1.6兆円市場、裾野広く

 バイオ市場も拡大する見通しだ。経済協力開発機構(OECD)は30年に世界のバイオ市場が約1・6兆ドル、OECD加盟国の全国内総生産(GDP)の2・7%規模になると予想する。

2030年にバイオ市場の規模は1.6兆ドルという予測も
2030年にバイオ市場の規模は1.6兆ドルという予測も

 特質すべきは裾野の広さだ。多様な物質を合成・分解できる生物の能力を生かし、従来の化学合成プロセスでは生産が困難だった素材を生み出すことも可能だ。その応用分野は医薬品や再生医療といった医療分野だけでなく、発酵食品などの食料、バイオ燃料やバイオプラスチックなどの素材、微生物による環境浄化など多岐にわたる。

 OECDの市場予測でも約1・6兆ドルのうち健康分野は25%に過ぎず、農業が36%、工業が39%と健康以外が大部分を占めている。企業や国も動き始めている。ブリヂストンはバイオマス(生物由来資源)から合成ゴムを生み出す研究を進め、Spiber(山形県鶴岡市)も人工的に作りだしたクモ糸繊維の商業化を目指している。

Spiberの人工的に作りだしたクモ糸繊維
Spiberの人工的に作りだしたクモ糸繊維

「第5次産業革命」の主役に

 経済産業省も「スマートセル(賢い細胞)」と題し、バイオ技術をモノづくりに生かす取り組みを推進。公的機関が持つ生物資源情報(ゲノム配列や生産物など)をデータベース化し、18年度中に構築する計画。また本年度中にバイオ産業の市場価値形成を目指した戦略を策定し、企業の投資を呼び込む考えだ。

 バイオ技術は既存産業にパラダイムシフトを促すだけでなく、食糧問題など地球規模の諸課題を解決する「第5次産業革命」の主役となる日も遠い話でない。

バイオ技術をモノづくりに生かす取り組みが進む
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