政策特集キャッシュレス決済が日本を変える vol.5

ロイヤルHDがキャッシュレス化の先に描く成長戦略

生産性向上と働き方改革で次世代型店舗目指す

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〈GATHERING TABLE PANTRYにて野々村常務〉

 ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」などを運営するロイヤルホールディングス(HD)が2017年11月に東京・中央区に出店した「GATHERING TABLE PANTRY(ギャザリングテーブルパントリー)馬喰町店」。現金を使用しない完全キャッシュレス店舗は業界内外から驚きをもって受け止められた。オープンからまもなく1年―。野々村彰人常務は一連の改革に手応えを感じている。

新・三種の神器とは

 「これがキャッシュレス店舗における『新・三種の神器』なんですよ」。野々村氏が見せてくれたのが、接客支援用に従業員が携帯するスマートフォン、アップルウォッチ、そして決済端末だ。同店ではiPadを活用したセルフオーダーシステムを採用。支払いの際には画面に表示される決済メニューの中から客が希望の方式を選択する。
店の看板に「キャッシュレス チャレンジ」の表示はあるが、客の間に戸惑いはないのか。
 「座席に案内する前に『現金は使えず、お支払いはクレジットカードか電子マネー、モバイル決済となりますがよろしいですか』と従業員が声をかけていることもあり、特にトラブルはありません。むしろタッチパネルでのセルフオーダーに慣れた若い世代は説明なしでもシステムを使いこなしています」

〈スマホのQRコードを表示してiPadのカメラに読み込ませれば決済完了だ〉

 「さまざまな決済方式に対応する中で感じたのは、(専用回線を介して認証する)わずか1分ほどのクレジットカードの通信時間さえ案外長く感じられることです。スマートフォンによるQRコード決済の手軽さは今後、多くの人に受け入れられていくのではないでしょうか」
 ロイヤルHDがこの店舗で目指すのは、決済の利便性追求だけではない。少子高齢化による生産年齢人口の減少やライフスタイルの多様化などサービス産業を取り巻く環境が変化する中、喫緊の課題である生産性向上と働き方改革を進め、次世代のビジネスモデルを模索する狙いがある。キャッシュレス決済は現在、直面する課題解決策のひとつにすぎない。
 「現金を取り扱うことは従業員にとって相当のプレッシャーがあります。終電に間に合うか気をもみながら行う閉店後のレジ締めはもとより、レジ担当者が交代する際には現金チェックを伴います。釣り銭の準備も日々の仕事です。これらに加え店長は、本部への報告事項や会議、従業員の研修などさまざまな業務に追われます。店長業務を含む店舗作業のIT化を進めなければ、ホスピタリティーという接客業の本来業務が発揮できません」

労働時間、大幅に短縮

 改革の成果はすでに顕在化している。店長の労働時間は大幅に短縮。既存の一般的な店舗では、レジ締めに40分ほど要しているが同店では数秒で完了。キャッシュレスのみの成果ではないが、店長が行う業務時間全体に占める管理・事務作業は19%から5・6%と大幅に減少した。開店・閉店作業も7・5%から2・5%に減り、その分、接客調理や店舗ミーティング、研修などに時間を費やせるようになった。やはり「ワンクリックでレジ締めが完了する」(同社)効果は大きいという。

 「従業員を現金管理から解き放つ意義は予想以上に大きかった。現金の受け渡しの手間がなくなったことで、お客さまとのコミュニケーションが増え、調理に集中することができるようになりました。テクノロジーの進展で今やロボットが掃除をする時代です。決済だけでなく、店舗作業全体のIT化を進めることで、従業員は人間が本来果たすべき『感情労働』に特化できると考えます」。

低コストで柔軟な出店可能に

 同店での取り組みをテコにロイヤルHDでは次世代型店舗のあり方を模索している。店舗作業のIT化と最新テクノロジーを活用した調理工程の効率化を同時に進め、少ない経営資源で効率的かつ柔軟に運営できる店舗戦略を描いている。「ギャザリングテーブルパントリー」では、油や火を一切使わず、自社のセントラルキッチン(集中調理施設)から冷凍配送したメニューを、パナソニックと共同研究した、複数の機能を持つ専用オーブンで加熱調理する。
 「今回導入した調理機器ではベテランコックが調理したのと同様の熱の入り方となるよう、細かくプログラミングされています。これにより仕込み時間を短縮しながらキッチン調理の再現に成功しました。クリーンなキッチンであることからレストラン物件以外へのテナントへの出店も可能になります」

次なる店舗は

 今回の店舗を研究開発拠点と位置づける同社。ここで成功した施策は今後、既存業態に展開することを視野に入れている。するとギャザリングパントリーの2号店はいつどこに。
 「日本橋・馬喰町の店舗はキャッシュレスおよび自社セントラルキッチンの新たな調理の検証に軸足を置いていましたが、次は利用者の属性などを立地検証することになるでしょう。キャッシュレス決済との親和性の高さから考えると次の店舗は、ITや金融関連企業が集積する都心のビジネスセンターが候補地となるでしょうね」
一方、今回のインタビューから数日後、既存店舗でも新たな動きがあった。「天丼てんや」を展開するグループ会社テン コーポレーションが新業態としてキャッシュレス店舗を東京・浅草にオープンしたのだ。
 「顧客ニーズもテクノロジーもめまぐるしく変化しています。我々のビジネスはこうした変化の波をいち早くキャッチできるかにかかっています」

※次回は地方にも押し寄せるキャッシュレス化の波を紹介します。

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