地域未来

精巧さに驚きの声 MICOTOテクノロジーの医療シミュレーターロボット

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「mikoto(みこと)」で内視鏡の操作を実演する檜山社長

ベッドに横たわった女性の口から、内視鏡スコープを檜山康明社長が差し込んでいく。時折、内視鏡スコープが咽頭部に当たると、女性が「おえっ」とむせるような声を出す。モニター画面にはしわの寄ったピンク色の粘膜のような画像が映し出され、どうやら胃の中を撮影しているようだ-。
この“女性”は、MICOTOテクノロジー(発売当時の社名はテムザック技術研究所)が2017年3月に発売した医療シミュレーターロボット「mikoto(みこと)」だ。外観、内部とも人体を精巧に模しており、ロボットの制御技術を使って動きを再現。かかった圧力でむせる機能にはセンサー技術も用いている。気管挿管と内視鏡検査、喀痰吸引の三つの手技を練習できるマルチタスクモデルと、気管挿管のみトレーニングするシングルタスクモデルをそろえる。鳥取大学医学部および医学部付属病院と共同開発した。

「練習させて下さい」

発売当初は「おえっ」とむせる咽頭反射を起こし、挿管が一番難しいとされる食道入口部までしかモデル化していなかった。18年8月、より下部の胃・十二指腸および気管支まで模したユニットを追加開発・発売し、mikotoのリアリティーは格段に向上した。「実際に医療現場に持って行くと、研修医などは『練習させてください』といってmikotoのそばを離れない」と檜山社長。企画・営業部の川上奈々氏も「先生方からの手応えがすごくよくなった。『人の体と同じじゃない。本当に日本製なの?』と驚かれる」と話す。
日本製なのか驚かれるのには理由がある。医療行為を練習するための「医療シミュレーター」と呼ぶ人体模型は海外製がほとんど。特に米国の医療教育では一般的に使われる。「世界のシミュレーター市場の5割以上を米国が占める」(檜山社長)。

檜山康明社長

そこに新風を巻き起こそうとしているのがこのmikotoだ。リアルな出来栄えに加えて、日本メーカーならではのこまめな営業対応も好評につながっている。「声がかかれば東京でもどこでも、車にmikotoを積んで説明にあがる。週に2、3回、鳥取と東京を往復したこともある」(川上氏)。厳しい意見や注文をもらっても、すぐに反映し改良して持って行く。するとまた驚かれるという。これまでの海外製シミュレーターでは考えられない対応だからだ。

地域経済に恩恵も

mikotoは18年8月までに16台を販売したが、今ではより多くの引き合いが寄せられるようになった。下部消化管内視鏡の練習ができるよう、大腸の模型も開発中だ。さらには、医療シミュレーターの本場である米国市場への参入を目指して営業活動を進めているという。
このロボットがヒットすれば、鳥取県米子市を中心とする地域経済にも恩恵が見込まれる。そもそも会社設立のきっかけ自体、自らの持つ技術シーズの事業化を検討する鳥取大学医学部が、サービスロボットメーカーのテムザック(福岡県宗像市)に声をかける形で始まったもの。解剖学的な咽喉頭部の造りや消化器の動きなど模型の実用化には鳥取大学医学部の識見が全面的に生かされた。「鳥取大学医学部から車で5分という近場に立地し、なにかあればすぐ聞きに行ける利点は大きい」(檜山社長)。従業員は地場の人材を積極採用し、部品の加工やデザインなども、地場企業に優先して発注している。
資金面でも地場資本が果たす役割は大きかった。設立当初、鳥取銀行の支援からスタートしその後、山陰合同銀行などが出資する「とっとり大学発・産学連携ファンド」から、16年4月以来4度にわたる出資を受けており、資本金と資本準備金合わせ2億円を調達した。「ロボット技術を活用した、これまでにない医療シミュレーターという事業プランに賛同してくれた方がいた。そのおかげで、実用化を加速できた」(同)。

医療教育に革新を

会社設立の母体になったテムザック(福岡県宗像市)は、サービスロボットメーカーとしてよく知られた存在。一方、設立当初のMICOTOテクノロジーは鳥取大学医学部の技術シーズを元に、5件程度の開発プロジェクトを進めていた。下肢の不自由な人の立ち作業を支援する車いす型ロボット「RODEM TRi(ロデム・トリ)」のように、実用化一歩手前までこぎ着けたものもある。だが、mikotoで製品化へと大きく足を踏み出せたのは、開発の柱を医療シミュレーターに定めて増資を受けたことが大きかった。
mikotoの普及に全力をそそぐ檜山社長は「医療関係者は早くスキルを上達できるし、未熟な手技で患者さんに負担をかけることも減らせる
このmikotoで、医療教育の世界に革新を起こしたい」と熱く語る。走りだしたばかりの鳥取発・人型医療ロボットだが、そのめざす理想は高く、得られる果実も大きい。

【企業情報】▽所在地=鳥取県米子市旗ケ崎2319の3▽社長=檜山康明氏▽設立=2014年4月▽資本金=1億1500万円▽売上高=3000万円(18年3月期)

コンシェルジュの目

【中国経済産業局 堀智義氏】

MICOTOテクノロジー(鳥取県米子市)は、本年7月に開催された「地域未来牽引企業サミットin熊本」で御登壇いただき、医療シミュレーターロボット「mikoto(みこと)」を使ったデモンストレーションを行っていただきました。
このmikotoを使った内視鏡操作の訓練は、内視鏡検査を行う研修医の技術力向上に非常に役立つもので、鳥取大学医学部との医工連携により開発されました。
今後、mikotoの更なる機能向上のために、当局としても研究開発の補助金等の活用により支援して参ります。鳥取発のmikotoが日本の医療現場で、さらには世界の医療現場で活躍することを期待しています。(談)

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