METI Journal

経済産業省

今、福島は vol.2

安定状態の維持と環境の改善

廃炉・汚染水対策1

福島第一原子力発電所の外景(1号機側から、2018年2月)
福島第一原子力発電所の外景(1号機側から、2018年2月)

 東京電力福島第一原子力発電所に“普通”を取り戻す取り組みが続いている。事故直後から大きな問題となっていた汚染水の発生量も今では大幅に抑えられ、浄化した上で安定的に管理する体制が整っている。また現場では除染によって放射線量が低減し、構内の95%は一般作業服等で活動できるようになった。食堂やコンビニ、緊急時の医療施設も整備された。30年~40年先を見据えて廃炉に取り組めるよう、働く環境の改善も進んでいる。

凍土壁で地下水の侵入防ぐ

 地下水が原子炉建屋内に流れ込み、放射性物質で汚染される汚染水問題。事故現場を安定させる上で大きな問題となったが、予防的・重層的な対策が進展。現在は維持・管理フェーズに移り、状況も安定。特に、世界でも類のない対策とされたのが凍土壁だ。1―4号機を囲むように全長約1.5キロメートルに1568本の凍結管を地下約30メートルまで打ち込んだ。氷点下30度の冷却液を循環させ、管の周囲の土が凍ることで壁となり、山側からの地下水が原子炉建屋周辺へ流れ込むのを防ぐ。

 この3月で凍結が始まって2年が経つ。現在、凍土壁は、深部の一部を除き、地中温度が零度を下回り、完成している。実際に、凍土壁の内側と外側では、地下水の水位に4~5メートルの差がついており、「壁」として水を遮っていることが分かっている。

 この凍土壁が山側からの地下水を遮断し、壁よりも下流の地下水・雨水を井戸(サブドレン)でくみ上げることなどにより、地下水位を安定的に制御し、建屋へ地下水を近づけない水位管理のシステムが構築された。また、大雨の時には、凍土壁によって建屋周辺への地下水流入が遮断されることで、地下水位の急上昇を抑制し、短期間に低下させることが可能となっている。

汚染水発生量が減少

 こうした重層的な汚染水対策により、1日あたりの汚染水発生量は、凍土壁が出来る前の1日約520トンから、現在では、1日約140トンにまで減少している。

 そして、凍土壁そのものの効果について。実際には、様々な対策メニューを同時並行で重層的に講じた結果として汚染水の発生量が減っているため、凍土壁のみの効果を抽出するには一定の仮定を置いて試算を行う必要がある。土木工学で一般的に用いられている手法でシミュレーションを行い、有識者にも確認をしていただいた推計によると、凍土壁がある場合、ない場合と比較して、凍土壁は、汚染水発生量を半減させる効果があることが分かっている。

汚染水発生のメカニズム
汚染水発生のメカニズム

 福島第一では2011年の事故後、がれき撤去や除染、敷地の舗装も大きく進展している。現在は事故を起こした発電所建屋の周辺をのぞき、構内の約95%は一般作業服等で活動できるようになっている。春には満開の桜の下を作業着姿の人々が行き交う光景もみられるようになった。事故前を知るベテランは「本当にわずかだが、一歩ずつ、事故前の姿を取り戻せている」と目を潤ませる。

毎日約5000人が働く

 東電福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏代表は「事故直後の野戦病院のような状況から落ち着きを取り戻し、長期的に活動できる環境が整いつつある」と説明する。福島第一の廃炉はプラントメーカーやゼネコン、施工会社などの幅広い人が関わる。技術者や現場管理者、事務方など毎日約5000人が働く。増田代表は「東京電力だけでは廃炉は為し得ない。安定した仕事と環境を整えることに腐心してきた」と振り返る。

 この環境改善を進めるにあたり、東電は2011年10月から毎年、従事者に労働環境についてアンケートを実施している。2011年や2012年は食事や休憩設備などへの要望や改善点の収集が中心だったが、2013年から「働きやすさ」について調査している。アンケートで構内の作業現場の働きやすさについて問うと、「良い」か「まあ良い」と回答したのは、2013年は43.7%だったが、2017年には78.3%に上昇した。

 2013年6月に入退域管理施設の運用が始まり、2014年4月には構外仮設休憩所、2015年5月には構内大型休憩所が稼働した。そして2015年6月大型休憩所の食堂、2016年3月にはコンビニ、4月にはシャワーが稼働した。その後、新事務本館や協力企業棟が稼働し、落ち着いてミーティングや事務仕事に打ち込める環境が整いつつある。

福島第一原子力発電所の構内(2016年4月)
福島第一原子力発電所の構内(2016年4月)

 環境整備に伴い、食事環境への満足度は2012年の31%から2017年は80%に向上した。緊急医療体制などの健康管理対策についても2013年~2017年は約81%~94%の間で推移している。そして福島第一で働くことについて2014年は46.8%の従事者が不安を感じていたが、2017年は38.7%に緩和した。反対に福島第一で働くことにやりがいを感じている従事者は2014年の50.5%から2017年は76.4%に増えている。継続的にアンケート調査することで改善点を探し、改善の効果を確かめている。

働く人のモチベーションを支える

 ただ課題もある。アンケートでやりがいを感じる理由を聞くと、「福島復興のため」が40.1%、「廃炉のため」が30.7%と、多くが自己使命感によるものだった。「まわりから感謝される」を挙げた人はわずか3.7%だった。環境改善が進んでいるとはいえ、福島第一はまだまだ過酷な現場だ。家族から心配される従事者も少なくない。こうした仕事は従事者自身だけでモチベーションを維持し続けるのは簡単ではない。東京電力も、トップによる作業員表彰や作業員を特集した雑誌(hairomichi)の発行などを行っているが、様々な取組により、作業員の方々のモチベーションをアップすることが重要だ。

 事故から7年が経ち東電や廃炉計画のマネジメントに向けられる社会的追及に隠れるように、現場への関心や応援が薄れている可能性がある。30年~40年先を見据えて、現場で働く一人一人のモチベーションを支えていく環境づくりが求められている。

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