METI解体新書

アジアと日本の「共創」、アクション重視で後押し

経済産業省アジア新産業共創政策室・大西智代室長補佐

 「経済産業省には色んな部門があるけど、それぞれの部署が具体的にどういう政策を担当しているのか分からない…」そんな疑問を抱かれる方も多いのではないでしょうか。

 「METI解体新書」では経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している具体的な政策について、現場の中堅・若手職員が分かりやすく説明していきます。

 第1回は、アジア新産業共創政策室の大西智代室長補佐です。

日本の「行動しない文化」変えたい

 新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、デジタルトランスフォーメーション(DX)はますます喫緊の課題となっています。ですが、日本のDXはアジア新興国に比べても遅れているという現実があります。私は、日本がデジタル化に遅れている背景に「行動しない文化」があると考えます。政府も企業も、既存の業務領域やレガシーシステムにとらわれ、新しいことにチャレンジしない。リスクをとった新しい挑戦を、社会全体が応援できていない。こうした「行動しない文化」がスピーディなデジタル技術の実装を妨げていると思います。

 私は、これまで気候変動交渉など国際交渉に携わり、国家間の交渉や合意形成も重要だと感じる一方で、刻一刻と深刻化するグローバルな社会課題を解決するためには、国だけではなく、企業や個々人の実際のアクションが非常に重要だという意識を強く持つようになりました。社会課題を解決する上で、デジタル技術は、大きなポテンシャルを秘めています。これからますます加速するだろうデジタルの世界、オープンイノベーションの世界は、予測が難しい領域ですので、全ての行動を先読みしてきっちりと戦略を立てることはほとんど不可能です。まずは小さくてもいいので行動してみて、最適なソリューションに近づくよう行動をアップグレードし続けるという、アクション中心のアプローチを私自身大切にしています。

 日本の「行動しない文化」を実際のアクションで変えていきたい。こうした思いから、日本の企業文化を変革させるきっかけとして、日本企業がアジアの新興国企業と連携し、デジタル技術を活用して社会課題を解決するための新事業創出(アジアDX)の後押しに取り組んでいます。

 アジアDXではアクション中心のアプローチを重視し、個別プロジェクトへの具体的な支援に力を入れています。「全体戦略を作って終わり」「補助金事業を採択して終わり」ではなく、アジアDXにやる気のある先進的な企業に寄り添い、プロジェクトのフェーズに応じた支援を提供しています。そうしたやる気のあるパイオニア的企業がリーディングモデルとなり、他企業にも「同僚・同士効果(ピア・エフェクト)」を働かせ更なる行動を促していくことが狙いです。

 日々、企業の担当者の皆様と会話をさせていただいており、適切な現地政府職員の紹介、補助金事業への案内、広報協力など、個別プロジェクトごとに柔軟な支援を提供しています。非常に手触り感のある仕事で、やりがいを感じています。

 また、アジアDXプロジェクトでは多くの若手職員が活躍しています。経済産業省では、若手職員が既存の業務を超えて、新しい政策を提案する創造的予算コンテストというプロセスが存在します。この創造的予算コンテストを活用して、省内の若手職員も巻き込みながら、アジアにおけるDX事情を明らかにする調査報告書の作成をチームリーダーとして主導しました。5月12日には、EY新日本有限責任監査法人と共催でアジアDXのウェビナーを開催し、経済産業省を代表して登壇する機会もありましたが、ウェビナーに参加していただいた企業の皆様から「大変刺激になった」とお言葉を頂き手ごたえを感じました。こうしたアクションを重ねて、今後もアジアDXの推進に邁進していきたいと思います。

アジアと日本は理想の「共創」パートナー

 アジア新興国ではデジタル経済が急激に発展し、配車サービスを皮切りにスーパーアプリへ成長した「グラブ」や「ゴージェック」など、デジタル技術を活用して現地の社会課題を解決するスタートアップが急速に成長しています。これは、アジアではインフラや社会制度が成熟していないゆえに、逆にデジタル技術による社会課題解決が一気呵成に進む環境があるためです。翻って、日本では、インフラや制度が整っており、日常生活でそれほどの不便がないことがかえって、抜本的な社会変革を阻害しているという側面もあります。

 他方で、日本にはアジアにない強みがあります。デジタル化が急速に進むアジアですが、リアルな技術、資金といった面では、足りていないところもあります。日本とアジアは長年良好な関係を築いてきましたし、依然として、アジアから日本企業の技術力は高い信頼を得ています。また、現地の社会課題は、日本企業の強みやソリューションを応用して解決可能なものが多く存在しています。

 こうしたお互いに足りないところを補いあうことで、アジアと日本は社会課題解決型ビジネスの理想の「共創」パートナーになると考えます。アジアはこれまで製造拠点として見られることが多かったのですが、特にデジタルについては日本が学ぶことの方が多く、共に学び新しい産業をつくっていく「共創」の場に大きく変化しているのです。

幅広い企業支援策を用意

 2019年9月、経済産業省において、アジアDX推進チームが立ち上がりました。アジアにおける新産業創出という、業種等の既存の枠組みを超えた取組を支援するため、関係各局の職員がチーム員として参加するという、画期的な組織体制となっています。2019年12月には、日本貿易振興機構(ジェトロ)においても、アジアDXを経済産業省と共に推進するため、「DX推進チーム」が創設されました。それ以降、経済産業省とジェトロは、事業フェーズに応じた様々なアジアDXの支援メニューを用意してきました。

 具体的には、オンラインを活用したマッチング、ウェビナーなどの開催や、アジア新興国企業と日本企業間での実証事業の支援などを行っています。今年2月には、海外スタートアップ企業等と日本企業の連携・協業を促す総合的なプラットフォームとして、J-Bridgeを立ち上げました。

 また、企業変革に向けた意識を喚起するため、企業への情報発信も積極的に行っています。今年3月には、アジアDXに取り組むパイオニア的企業が先行事例を紹介する「ADX Pioneers」というウェビナーを行いました。5月24日から28日には「日ASEANビジネスウィーク」と銘打ち、ASEANに関するウェビナーを集中的に開催し、「デジタル」や「グリーン」の分野でアジア企業との協業について情報を発信しました。

小さなアクションからでも、行動を

 アジアDXの最終的な目標は、アジア新興国企業との協業を通じて、日本企業の変革を促すことにあります。アジアは、一昔前の「製造拠点」というイメージからは大きく変革しています。世界に先駆けて、先端技術を取り入れ、アジア発でグローバルに展開する企業も現れてきています。こうしたアジアのイメージを日本産業界全体に正しく伝え、実際のアクションを促していくことが、私のミッションです。当然、企業変革を促すということは、「言うは易し、行うは難し」の領域で、一朝一夕にできるものではありません。ウェビナーでの働きかけや適切な情報発信を続けながら、企業の皆様と丁寧に向き合うことで、少しずつアジアDXの波を大きくしていきたいと思っています。

 日本企業の皆様には、アジアDXを難しい概念と捉えるのではなく、小さなアクションからでも構いませんので挑戦していただきたいという思いです。支援企業からは「政府関係機関の後ろ盾を得たことで現地での信頼性が高まり、現地との共創を進めることができた」と政府との連携を重要視する声も届いています。企業の皆様の熱い挑戦を全力で支援させていただきたいと考えています。

 経済産業省の具体的な支援策については、ジェトロDXポータルに加えて、経済産業省のHPにアジアDXの関連施策をまとめたページを新設しましたので、そちらを参照していただければと思います。

【関連情報】
経済産業省とEY新日本有限責任監査法人共同でウェビナー「アジアにおける“新産業”とのデジタル共創~アジアDX~」を開催しました。

経産省 アジアDXプロジェクト

ジェトロ DXポータル