地域未来

脱炭素社会を支える白金抵抗温度計 ネツシンの開発力の秘密

組織改革に手応えも

水素社会に不可欠な液化水素を正確に測温する極低温用標準白金抵抗温度計


 白金抵抗温度計など超小型・精密センサーを得意とするネツシンは2021年8月、50周年を迎える。東京・板橋で創業後、同・練馬などに移転を重ねながら、企業規模を拡大。1986年以来、現在の埼玉県三芳町に本社を構える。今村友亮社長は「下請けの仕事は面白くないと、元請けから独り立ちしようと思い立ち、現本社に移ったそうだ」と、父で創業者の今村郁前会長から聞いた経緯を明かす。

半導体の高集積化、微細化が転機に

 90年代前半のバブル経済崩壊や2008年のリーマンショックで業績が大きく落ち込むなど、苦しい経営を強いられた時期もある。転機が訪れたのが2010年頃。半導体の高集積化、プロセスの微細化でセンサーにも超小型かつ高精度のものが要求され始めたのだ。このニーズに的確に応えたことで業績が一気に安定する。実はその基盤技術は現本社に移転した86年当時、すでに確立していた。「練馬にいた頃に研究開発していたが、当時は安い製品が求められ、日の目を見ることがなかった」(今村社長)と振り返る。
 具体的には、直径0.4ミリ×長さ3.0ミリメートルの筒状のセラミックス管に二つの孔を開け、その中にコイル状の白金線を通すことで100オームの抵抗素子に仕上げていたのだ。それが十数年を経てネツシンの飛躍を促した。2000年頃には四つの孔を開けることで白金線の長さを2倍に延ばし、その分、長さを半分の1.5ミリメートルにする製法を確立。孔の数を増やすことで素子の抵抗値を引き上げ、極小サイズを維持したまま、精度を追求した。
 同時に、工場ではクリーンルーム増設やハイスペックの分析装置導入など設備投資を敢行。半導体製造装置に加え、半導体用計測・検査装置メーカーの厳しい要求を満たし、「かつては知名度もなく、営業に訪問しても門前払いだったのが、今では先方から『安定供給をお願いします』と言われるくらいまで変わった」(同)と振り返る。

国内に数十台しかない高価な英国製の測定装置を操る今村社長

究極の開発品 国際標準のお墨付き

 究極の開発品と言えるのが、水素が液化するマイナス253度Cまで対応できる極低温用標準白金抵抗温度計。2050年のカーボンニュートラル・脱炭素社会実現に向け、水素エネルギーの普及に欠かせないセンサーだ。極低温下でも感度を上げるため、素子の抵抗値を従来比10倍の1000オーム(ゼロ度C時)に向上。水素が液化する温度帯で100分の1度Cの精度で測定できるようになった。そこに必要な白金線の長さを稼ぐため、直径1.8ミリメートルの素子断面に開けた孔の数は何と12個。長さ15ミリメートルのセラミックス管の中に納めた白金線は実に2.6メートルに及んだ。
 とはいえ、今村社長は「技術は元々あった。それ以上に重要なのは産総研(産業技術総合研究所)に評価してもらえたこと」と強調する。国内で唯一、国際間の温度基準の整合性を保証できる産総研に性能評価を依頼。結果、温度の国際基準「1990年国際温度目盛(ITS-90)」に準拠していることが確認された。これがお墨付きとなり、17年春に満を持して市場投入した。

力を引き出す組織風土改革

 ほぼ時を同じくして今村社長が着手したのが組織改革だ。まず、従業員の働く意欲を向上させるべく、約50人の契約社員を一斉に正社員化した。「どうしても不平不満が生じてしまう。総人件費が相当上がるとの懸念もあったが、それ以上に従業員のモチベーションが大事」と考え、これを断行。同一労働同一賃金制度も先取りした。

製造現場に立つ今村社長


 もう一つが生産管理部門の新設。品目や顧客の要求が多岐にわたるようになり、営業と製造部門の間を調整する必要が出てきたためだ。「カスタマイズ品が多く、顧客から支給材を渡されるケースもあり、手が回らない」状況だったが、ここに調整役が加わったことで、製造部門はモノづくりに集中できる環境が整った。
 さらに各部門にリーダー役を配置。1人しかいなかった課長職を10人に増員し、待遇を改善。部下を指導する立場に据えた。ほどなくして彼らに責任感が芽生え、問題があればリーダー同士が集まり、現場で話し合って解決してしまう体制ができあがった。今村社長は「以前は個人プレーばかりでけんかも多かった。今は社長に情報が上がる前に片付いてしまうので、自分も現場にいないといけない」とうれしい悲鳴を上げる。
 そうした変革は数字にも現れた。「お恥ずかしい話だが、社内検品で月30-40件ほどあった不具合が今はほぼゼロ」という水準に改善した。もう一つ、ゼロになったのが残業時間。17年頃までは長時間残業や休日出勤がざらで現場が疲弊していたのが、19年の半ばにはほぼゼロに。その後も「コロナ禍ではあるが仕事量は落ちてない」にもかかわらず、ゼロを継続中だ。

顕微鏡を使う繊細な作業では女性が熟練工として活躍する


 ゴマ粒より小さいセンサーの組み立て作業は非常に繊細で神経を使う。主に約7割を占めるという女性社員が、顕微鏡を覗きながら手作業で極細の白金線を極小の孔に通していく。「安定して作業できるまで10年はかかる。とても大変な仕事。会社としてできることは何でもしてあげたい」と、今村社長自らポケットマネーで季節ごとの菓子を用意したり、旅行などの親睦会を企画したり、心配りを欠かさない。20年末の納めの出社日には、コロナ禍で辛い日々を送った労に報いようと、全員に一流ホテルの食品ギフトを直接手渡し、「誰一人、愚痴も言わず、黙々と仕事してくれてありがとう」と頭を下げた。
 高精度、微細化を追求する開発力と、従業員の力を引き出す組織風土。ふたつが相まって、さらなる成長の原動力となっている。

【企業情報】
▽所在地=埼玉県入間郡三芳町上富2079-7▽社長=今村友亮氏▽創業=1971年8月▽売上高=約9億円(2020年7月期)