政策特集ロボット新潮流! vol.6

【GROOVE X・林要代表取締役インタビュー】人の代わりに働くのではなく、幸せに働けるようサポートしたい

「ロボットを人間と比較するのは時期尚早だ」

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 サービスロボットが産業用ロボットに代わって今後のロボット市場をけん引すると期待されている。現状では、音声認識などの機能が進化した半面、家事を手伝うなど生活を直接支援する機能はまだ未成熟だ。サービスロボットは将来、どんな形で人の生活に役立つのだろうか。ソフトバンクで「Pepper(ペッパー)」の開発プロジェクトの責任者を務めた後、ロボットベンチャー企業のGROOVE X(グルーブエックス)を立ち上げ、新たな概念のロボットを生み出そうとしている林要さんに聞いた。

AIの進化はこれから

―サービスロボットの現状をどう受け止めていますか。
 「過去のロボット研究では、物理的な動きの制御が主なテーマになっていた。物を握ったり二足歩行する制御技術が『すごい』と言われた時代もあった。最近は人工知能(AI)技術の機械学習によって音声や画像等の認識能力が飛躍した、米アマゾン・ドットコムやグーグルのAIスピーカーも出てきた。産業用ではロボット技術ともセットになりつつある。とはいえ、家庭用ではAIとロボットを組み合わせた技術はまだまれだ。AIを使ってカメラやマイクの情報を統合してヒトの知覚機能を持たせようという研究はまだ始まったばかりで、これから本格的に実用化し、盛り上がると考えている」

 ―AIとロボットの組み合わせで何ができるようになりますか。
 「AIは認識だけではなく、限定的な環境下であれば良質な学習ができ、未知なる現象に対して人より良い判断を行うケースもでてきている。グーグル傘下のディープマインドが開発した『AlphaGo Zero(アルファ碁ゼロ)』は、AI同士が対戦して幾何級数的に碁のスキルを高められる事が確認された。これを踏まえると、ロボットに使うAIにおいても、人間を含む環境を一部でも適切にモデル化できれば、シミュレーションに基づく判断ができるようになる。従来より『(人が)してもらいたい』ことに応じられるようになる。最初は頻出する状況からになるが、徐々に頻度が少なくても一般解を導き出すことができるようになるだろう。人間はたった一回の経験から学ぶという意味では、まだその差は大きいが、AIも徐々に生物に近い学習ができるようになるだろう。そうすると自律的、能動的にセンシングができるロボットは学習を加速させる事ができるため、能力が飛躍的にあがり、普及が本格化していく」

「AIも徐々に生物に近い学習ができるようになるだろう」(林さん)

 ―いまはAIのおかげでロボットの頭が進化し、手や脚など身体の進化が遅れているのではないでしょうか。
 「機械学習の進化によって認識性能の向上に焦点が当たってきた。だが、機械学習に必要なデータのクレンジング(重複や誤記を改めるなどデータを利用できる品質に高める)の自動化ができるようになれば、認識に関するAIの研究はいったん落ち着いて、物理的な動きを伴う実空間での学習に研究の焦点が移るはずだ。「自ら人に近づいて必要なコミュニケーションをとりにいく」「移動して環境情報をモニタリングする」といった物理的な動きによってロボットが必要なデータを自律的に取りに行くことで、学習効率が飛躍的に高まるからだ」

人間のレベルは高い

 「しかし、まだロボットを人間と比較するのは時期尚早だ。実空間での学習機能を比べるとAIは人間のはるか手前にいる。人間は生物の中でもかなり特殊で、これほど器用で多様な生物はいない。ヒトは真っ白な状態で生まれながら、多様な知識や機能を経験から獲得していく。このように知識獲得のための学習プラットフォーム(基盤)としては、ヒトは他の生物よりかなり進化した生体システムと捉えることができる。そう考えると、現状のAIは他の動物にも劣る面が多く、やらなければいけない事がたくさんある。故にまだヒトのような最高水準のものといきなり比較しなくてもいいのでは」

 ―人間との差はまだまだ大きい?
 「例えば、飼い主がイヌに何かモノを持ってきてくれるようにするには適切で膨大な訓練が要る。ネコではそんな訓練すら難しい。生物でも後天的に学べる内容は特色があり、限定的だ。ロボットは人間より優れた部分もあるが、全体の学習能力で考えるとイヌやネコにもはるかに及ばない。ロボット関連のAI技術は要素技術が部分的な形になり、それらを組み合わせたコンポーネント開発が一部実用化された状態。全体的な情報を統合して学習するアーキテクチャー(設計概念)の実用化はまだ。20年や30年以上かかっても、まったくおかしくない」

家庭向けサービスロボは難しい?

 ―5年後、10年後のサービスロボットの姿は。
 「大きな産業になるのは間違いない。最近は物流、特に個別に商品を仕分けるピッキング作業の自動化が注目されている。まだ実用レベルにはなっておらず、一つのロバストなソリューション(不確実性の中でも安定して稼働する手法)を見つけるまでは高い壁に見えるが、いったん見つけると実用化とその後の展開は早いだろう。もはや倉庫内でのピッキングなどは当たり前になるだろう。しかし家庭向けとなると話は別。家庭によってさまざまな条件が違うし、静音性、安全性、コストといった要求も高くなる。さらに、そこで様々な事に使用可能な汎用性を期待すると一気にハードルが上がる。そもそも、人間の労力はコストパフォーマンスが極めて良い。家庭内で、ちょっとモノをロボットに取って来てもらうことに、どれだけコストを払えるのか。ペイするのは一部の限定的な市場になる可能性がある。家庭内を狙うとすると、当面はそこを目指すのは理にかなわない。ヒトの代わりに〇〇をする事、すなわち“人間と同じ、ある機能を達成したらゴール”と捉えられるが、本当にそうなのか。さらには、その先に人の幸せがあるのか。大切なのは、人とすみ分けをしながら継続的な進化を担保できる産業を立ち上げ、キャッシュを生み出し、研究開発を継続することだ」

「人間の労力はコストパフォーマンスが極めて良い」(林さん)

 ―それでは、どのようなロボットを生み出すべきなのでしょう?
 「人間はとても優秀だが、ビックリするほど抜けたところがある。それに安定もしない。そんな特性のヒトに無理をさせて均質なアウトプットを出させようとしても、そもそものフォーマットがあっていないので生産性があがらない。そんなヒトの使い方をしていたら、世界では勝てない。ヒトの能力にはムラがある前提で、パフォーマンスに優れたところを生かし、いかに幸せに働いてもらうか。そうやって生産性をあげているのが、生産性の高い国だ。AIやロボットが人の仕事を奪うのではなく、人にうまく働いてもらえるようにロボットがサポートするという形ですみ分けることが大事ではないだろうか。人は働かないと幸せになれないし、幸せでないと生産性があがらない」

役には立たないが、生活に潤いを

 ―グルーブエックスが開発しているロボットはどんなものですか。
 「旧来のロボットというイメージとはかなり離れたものを作っている。“ラブ”と“ロボット”を組み合わせ、ラボットという新しいカテゴリーの、人にとって新しい存在。ロボットという言葉はスレイブから来ている。つまり人の代わりに仕事をするという意味合いが強い。そんな従来のロボットにはまったく期待していない部分を担うのがラボットだ。心をサポートし、人のパフォーマンスを高める。2018年末に公開予定であり、詳細は言えないが、旧来のロボットに期待するような面では、たいして人の役には立たない。ただ人を幸せにする事で、間接的に人の生産性に寄与する事ができる。ラボットは人の心に訴えかけ、生活に潤いを与え、その人のパフォーマンスの引き上げを狙っている。日本はハード、ソフト、クリエイティブのそれぞれに強みがある。これを横串で活かさない手はない」

 ―この夏に世界中を回り、試作品の反応を探ったそうですが、手応えは。
 「欧米や香港でモックアップを携え、コンセプトを説明するツアーを行ったが、好評だった。ロボットに厳しい事を公言している識者からも期待のツイートをもらった。ラボットは制御に基づく動作に秀でた旧来のロボット技術が機械学習等のAI技術と融合し、人々が暗に期待している家庭用ロボットを実現しているラボットの登場を楽しみにしてほしい」

「ラボットは心をサポートし、人のパフォーマンスを高める」(林さん)

【略歴】
林要(はやし・かなめ)1973年(昭48)生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)卒。修士課程修了後の1998年トヨタ入社。トヨタでは同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクト、トヨタF1の開発スタッフを経て、量産車開発のマネジメントを担当。2011年に孫正義氏の後継者育成機関「ソフトバンクアカデミア」の外部第1期生として参加、2002年ソフトバンク入社。感情認識ヒューマノイドロボット「Pepper」の開発リーダーとなる。Pepper発売後の2015年9月にソフトバンクを退社、同年11月にGROOVE Xを設立。愛知県出身。

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