地域未来

四国随一の観光スポットを目指す四国水族館

コロナ禍逆手に満を持してオープン

四国水族館の人気スポット。マスコット“しゅこくん”のモデルにもなっているシュモクザメを水槽越しに見上げる小学生たち


 2020年6月1日にオープンした「四国水族館」は、400種、1万4000点の生き物を展示する水族館。9月末日時点の来館者数はのべ約30万人を超え、コロナ禍の影響を受けながらも上々の滑り出しだ。
 水族館を運営するのは四国水族館開発。代表取締役社長の流石学氏は、山梨県出身で、医療分野や地方創世を得意とする経営コンサルタントが本業。縁もゆかりもない香川県宇多津町にやってきたのは、2014年。水族館プロジェクトに携わった友人から「宇多津臨海公園の面的な活性・発展の為に水族館を造るので力を貸してほしい」の要望があったからだ。
 「宇多津臨海公園には、ゴールドタワーという高層タワーがあります。バブル時期には人が大勢集まり、とても賑わっていましたが、バブル崩壊以降は人出が途絶え、周辺は衰退の一途をたどっています。どうしたら再び地域を活性化できるかという議論が行われ、水族館ならばエンターテインメント、社会教育施設として地域の発展に貢献できるのではないかという結論に。私は魚類や海洋の専門家ではありませんが、地方活性という意義であれば事業に注力できると思ったのです」と流石氏は語る。
 日本には水族館があまたあるが、近年の地方創生の取り組みの中で、民間主導でこれほど大規模な施設はほとんどない。また、“四国”という圏域が名称についた水族館も他にない。「まさに四国の地域振興のための水族館なのです」と顔をほころばせる。

流石学社長

 四国水族館は“次世代型水族館”として、あらゆる意味で画期的。展示コンセプトの一番の特徴は、瀬戸内海、四万十川、黒潮、鳴門の渦潮など、四国の雄大で豊かな水景、生き物たちが住む海や川、そして文化を感じとることができる。
 「展示魚類・動物の説明書きはありません。詳細が知りたい人はQRコードを読み込んでもらうシステムになっています。この方法は不親切だとのお声もありますが、当館では、四国の水中世界の素晴らしさを一番に知ってもらいたいのです」
 地方創生の文脈に乗っ取れば、見てほしいのは、あくまで四国水景。四国の海、川、池、ひいては四国の文化の魅力を県内、県外全ての人に知ってほしいということだ。
 また“大人のための水族館”というコンセプトも斬新だ。例えばイルカプログラムが行われるプールはインフィニティエッジ(水盤や外縁を水で覆い、海との境目がないような構造)となっており、瀬戸内の穏やかな海と溶け合うかのよう。特に夕陽の時間が美しく、空の色が刻々と変わるマジックアワーにゆっくりとお酒を楽しめる。
 香川は三年に一回開催される瀬戸内国際芸術祭の開催地の一つということもあり、館内のいたる所にアートの粋がある。例えば多くの水槽に額縁装飾を施し、水中世界を描いた風景のように演出。「美術館のような水族館」と呼ばれるのも大人に支持されるゆえんだ。

イルカプログラムが行われているインフィニティエッジプール

休業期間を支えた「サポーターズパスポート」

 オープンまでは試行錯誤の連続だった。本来ならば3月20日に開館するはずが、新型コロナウイルスによる自粛休業により、オープンが6月にずれこんだ。
 「立ち上げから6年もかけてやっと開館できると思っていたのに、まさかのコロナ禍での休業。赤字が増える一方だったので『あー、やってしまった』と思いましたが、そのうち『自分はツイているかも』と思うようになったのです(笑)」。
 なぜか。通常なら、オープン初年度が来館者数のトップピークになることが多い。しかし期せずして集客のピークの平準化が図られたことで、来館者の満足度を下げる要因を減らすことができた。また、3月20日の時点では、館内オペレーションの準備不足、周囲の交通渋滞や駐車場問題など、対策を講じていたものの不安を払拭し切れていなかった。流石氏は顧客や周辺住民への謝罪行脚を覚悟していたそうだ。しかしオープンがずれ込んだことで、懸案事項を見直す期間にあてることができた。
 そして、休業期間を乗り切るために発売された「サポーターズパスポート」が、大きな話題になる。
 「自粛休業期間中の生き物のエサ代や施設の維持管理費を捻出するために、いわゆる年間パスポートを発行したのです。通常の水族館なら入館料の2倍ほどの料金が一般的ですが、当館は10倍の22,000円で販売。その代わりパスの名義人の同行者が1名まで無料という特典があります。『値段が高すぎる』という声があちこちから聞かれましたが、限定2000枚がなんと5日間で完売。皆さんの当館へのサポートの気持ち強さ、期待値の高さを知りました」
 これらは、図らずもコロナ禍がもたらしたメリットだろう。

四国4県の水族館構想に期待

 こうして水族館の開館に尽力してきた流石氏だが、実はオープン後は本業のコンサルティング業務に専念するつもりだった。
 「本当は、地元出身の社長候補者が何人かいらっしゃいました。しかし、あの人を立てれば、この人も立てないといけないなど、と地方特有の様々なしがらみが多すぎて。結局“よそ者”の私が社長を続けることになりました。波乱万丈のスタートを切りましたが、今は当館の未来を考えるとワクワク度が大きい。残念なことに、四国4県はあまり協力体制をとっていません。四国には個性的で魅力的な水族館がたくさんあります。これを機に、四国の水中世界に興味を持ってもらい、他の水族館にも足を運んで頂きたい。夢は四国全体が水族館のテーマパークのようになることです」
 そして、沖縄の美ら海水族館のように、当地を訪れたら必ずここへ行きたい、と思われるような観光スポットにしたいとも。
 「そのために5年先、10年先という長いスパンでの構想を練らないといけないですね」
 四国4県が一体になる日を夢見た流石社長の挑戦は、まだ始まったばかりである。

【企業概要】
▽所在地=香川県綾歌郡宇多津町浜一番丁4▽社長=流石学社長▽設立=2015年▽売上高=非公表