統計解説

紙類の生産動向が映し出す社会の変化

紙媒体の低迷や新型コロナでの需給逼迫


 朝夕配達される新聞、学校で使う教科書、日々の生活に欠かすことのできないトイレットペーパーなど、私たちの生活の中には身近なところにさまざまな紙類がある。昨今、ペーパーレス化も言われる中、その身近な紙類の生産動向はどのようになっているのかみてみたい。

リーマン・ショック後は一転 低下基調

 鉱工業指数で確認できる1978年以降の「鉱工業総合」と「紙」の生産推移をみてみる。2015年を100とする現行基準でみると、1994年から2008年にかけては、「紙」の生産は、「鉱工業総合」を10ポイント以上も上回る高い水準で推移し、上昇傾向にあった。しかしリーマン・ショックのあった2009年には、「鉱工業総合」、「紙」ともに大幅に低下し、翌2010年にはともに回復したものの、これ以降「鉱工業総合」はほぼ横ばいを維持しながらの推移となったのに対し、「紙」は低下傾向での推移となった。
 1989年以降は「鉱工業総合」を上回る水準で推移していた「紙」だが、2016年以降は、「紙」の生産は「鉱工業総合」の水準を下回り、2016年は0.6ポイントとわずかな差だったものが、直近の2019年では10.1ポイントとその差を広げている。

「新聞巻取紙」や「印刷用紙」の低下大きく

 続いて、「紙」の内訳系列である「新聞巻取紙」、「印刷用紙(非塗工類)」、「印刷用紙(塗工)」、「情報用紙」、「衛生用紙」の生産推移をみてみると、「新聞巻取紙」の低下が最も大きく、基準年の2015年と比べると約8割の水準まで落ち込んでいる。続いて「印刷用紙」の「塗工」、「非塗工類」が低下となる一方、「情報用紙」と「衛生用紙」は上昇となっている。
 紙の新聞や印刷への需要減により「新聞巻取紙」や「印刷用紙」の生産が減る一方、コンピュータやプリンタ等のOA機器の普及に伴い使用される「情報用紙」や、衛生用などで用いられるティッシュペーパー、トイレットペーパー、タオル用紙、ナプキンなどの「衛生用紙」の生産は増えている。ただ、前者の生産減を後者の生産増が補いきれていない様子である。

「新聞」「出版」の市場縮小

 大きめな低下をみせた「新聞巻取紙」だが、その名のとおり新聞印刷に使用するものである。同じく低下となった「印刷用紙」の「塗工」は、雑誌の表紙、カレンダーやパンフレットなどに、「非塗工類」は、教科書や書籍、雑誌などに使用される。
 これらの生産は低下となっているが、新聞や書籍などの動きはどうなっているのだろうか。第3次産業活動指数(新聞発行部数や書籍などの発行部数を元データに「新聞業」、「出版業」として公表)でみてみると、「新聞業」、「出版業」とも、リーマン・ショックのあった2009年以降、低下の速度が増したようだ。 また、これらに含まれないフリーペーパーやフリーマガジンも2000年代前半に台頭したものの、やはりリーマン・ショック前後からその市場も縮小に転じたようである。

スマートフォンやタブレット端末の普及

 他方、「通信利用動向調査」(総務省)で情報通信機器の保有状況をみてみると、リーマン・ショック前後の時期に登場したスマートフォンやタブレット端末の保有率は、年々伸びていることが分かる。
 このような電子端末機器の普及に伴い、新聞や書籍、雑誌という紙媒体ではなく、普段持ち歩くスマートフォンやタブレット端末など、どこでも気軽に利用できる機器を利用して、「電子版ニュース」や「電子書籍」、あるいはSNS、動画などの閲覧が増えていると考えられる。

 新聞業や出版業の低迷が続く一方、リーマン・ショックによる景気後退の影響や、インターネットの普及によるウェブメディアなどの台頭、スマートフォンやタブレット端末の普及なども生じた中で、情報媒体としての新聞巻取紙や印刷用紙への需要も低下し、それらの生産も低下したと考えられる。
 このように、「紙」の生産については、情報用紙や衛生用紙の生産は増加しているものの、新聞巻取紙や印刷用紙の生産の低下が続いていることで、「紙」全体の生産は低下している。 なお、「紙」の生産は低下が続いているが、「パルプ・紙・紙加工品工業」の中では、ECの成長を背景とした段ボール原紙などの「板紙」や紙おむつ等の「紙加工品」の生産は、鉱工業全体を上回る伸びをみせており、ペーパーレス化が進む中でも、紙類への需要は違った形で生じていることが分かる。

トイレットペーパー不足騒動の中で

 鉱工業指数では「紙」の中でも上昇している「衛生用紙」を構成する品目の一つ「トイレットペーパー」だが、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し始めた2月から3月頃に、なかなか購入できないという騒動があった。では、そのトイレットペーパーの生産動向はどうだったのだろうか。
 これは、生産動態統計(経済産業省)でみることができる。2015年1月からのトイレットペーパーの動きをみてみると、通常おおむね一月当たり約9万トン弱の生産と出荷が行われているが、2020年3月は、生産、出荷ともに10万トンを超え最高水準となっている。一方で在庫は大きく減少しており、トイレットペーパーが買えないという騒動の中で、メーカーは、3月は、需要の急増に対応して出荷を大幅に増加させた一方、在庫を取り崩しながら増産して対応していたことが分かる。

 このように、私たちの生活に身近な紙類の生産動向については、鉱工業指数や生産動態統計をみることで知ることができるが、紙類以外にも、さまざまな製品の生産などの動向や構造変化などについて知ることができる。最近は、新型コロナウイルスの存在を前提とする「ウィズコロナ」の時期が当面続く一方、テレワークも急拡大している中で、「紙」の中でも近年生産が伸びていたオフィスで使う情報用紙や、衛生用紙の生産も、リーマン・ショックの前後で「紙」の生産に大きな変化が生じたように、また変化していくかもしれない。今後の動向も気になるところだ。