政策特集フィンテック vol.9

フィンテック社会の実現に向けて

イノベーションはスピード勝負で

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 経済産業省は今年5月、目指すべきフィンテック社会や政策課題などを「FinTechビジョン」として取りまとめている。ビジネスや生活の中に急速に広がりつつあるフィンテックの普及を促進し、より良い経済・社会を実現するためにはどうすれば良いのか。ビジョンをひもときながら見ていきたい。

相性が良いデジタル化

 ビジョンでは、まずフィンテックによって「何が起きているのか」をまとめている。ファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)を掛け合わせたフィンテックは、IT(情報技術)の金融領域への本格的な進出と言える。つまり、お金の流れをデジタル化するということだ。もともとお金の流れというのは数字のやり取りであり、デジタル化とは極めて相性が良い。そこにブロックチェーンや認証技術、金融機関とのAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)連携などが組み合わさり、金融の世界が大きく変わり始めた。

 その担い手としてフィンテックベンチャーが数多く登場している。ユニコーンと呼ばれる時価総額10億ドル以上の企業が続々と生まれている米国や中国とはスケールが異なるものの、わが国でもPFM(パーソナル・ファイナンシャル・マネジメント)と呼ばれる家計簿アプリ最大手のマネーフォワードが9月末に上場したように、有力なベンチャー企業が台頭し始めている。その背景にあるのが、フィンテックにより進む金融サービスのアンバンドリング化だ。決済や送金、与信、融資といったサービスの一部が銀行など従来の金融機関から切り離され、新しい担い手によって新しいサービスが次々と生まれだした。

金融包摂の切り札に

 フィンテックで期待されるのが、従来は金融サービスから取り残されていた層への「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)」だ。日本では銀行口座は言うまでも無く、クレジットカードの保有比率も高い。しかし世界を見渡すと20億人の成人が銀行口座さえ持っていない。特に紙幣や硬貨といった物理的なお金をやり取りできない電子商取引の世界が広がり続けているだけに、金融サービスへのニーズはかつてなく高まっている。そのフィンテックを加速する最大の要因はスマートフォンの普及に違いない。パソコンと同レベルの機能を持つ端末の登場で、あらゆる金融サービスを“手のひら”で受けることが可能となってしまった。加えてパソコンと違って、通信会社との契約がともなうため本人確認が容易であることも有利。中国の電子商取引最大手であるアリババが第三者決済サービス「アリペイ」を成功させた背景にも、中国でのスマートフォンの爆発的普及がある。

 フィンテックはお金の流れのデジタル化を促進するとともに、お金の流れそのものも変えてしまう。そうして社会課題の解決や新たな社会インフラの提供、さらには企業や産業全体の競争力を高めるイノベーションの原動力ともなり得ると期待される。

 そんなフィンテック社会を実現するためには何が課題となるのだろうか。ビジョンでは基本的方向性として、フィンテックの前提条件を整える、「お金」の流れを円滑にする、中小企業等のフィンテック活用を後押しするの3点にまとめている。そして、それらのイノベーションを促す仕組み作りが必要だ。

フィンテック社会の実現に向けた道筋

 フィンテックの前提条件としては、個人データの権利明確化やポータビリティ(サービス乗り換えとともにデータも移行)のルール作りが必要となる。加えて電子的な決済をより普及させる、つまりキャッシュレス社会の加速、そのためのセキュリティの確保が挙げられている。これらによりお金の流れのデータが、よりユーザー起点で組み合わさることになり、新しいフィンテックサービスが加速していく。

デジタルで完結により利便性向上

 「お金」の流れの円滑化では、本人確認のデジタルでの完結とあわせて、行政手続きのデジタル化、行政データのオープン化の必要性に言及。加えて金融機関などがAPIを開放することによるオープン・イノベーションの促進やブロックチェーンの活用なども訴えている。金融サービスの一連の流れがデジタルで完結することで、ユーザーの利便性をより高めていくサービスが期待できる。

 中小企業に関しては、クラウドサービスの活用によるバックオフィス改革と、その前提となるインターネット・バンキングの普及促進が課題となる。また資金ニーズに柔軟に対応できる金融サービスを普及させるための仕組みづくりや、サプライチェーン全体の資金循環の効率化を政策指標として検討する。フィンテックは中小企業やベンチャー企業の経営力や資金調達力を強化していく。

 これらの政策課題を実現していくためには、イノベーション創出の環境を早期に整えなくてはならない。そこで期待されるのが「レギュラトリー・サンドボックス」。砂場遊びのようにある程度の失敗を許容しながら、新たな取組へ試行錯誤していける規制のあり方のことだ。現行の規制が想定してない新事業も「まずはやってみよう」というスピード重視の手法である。フィンテックが、ビジネスの世界だけでなく社会全般をも変える可能性を秘めている中、どれだけのイノベーションをわが国で起こすことができるのか。これまで以上にスピードが問われることになる。

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