地域未来

医師が信頼寄せる百年企業「田中医科器械製作所」

「鋼製小物」手作業にこだわる繊細な技術力

 

 田中医科器械製作所は医師やメーカーからの注文を受け、要望に合わせたハサミや鉗子、ピンセットなど「鋼製小物」と呼ばれる医療機器を製造・販売する。
 現在、日本で使われる医療機器は海外製が主流。それでも医師の細かい要望に応えられる高い品質を誇る同社製品への信頼は厚い。職人の技術継承にも力を入れている。長年にわたり蓄積してきた技術力と変化をいとわない経営姿勢で次の100年へ向け、挑戦を続ける。

多品種少量 ニーズに応える

 同社の主力製品は整形外科医向けの鋼製小物の医療機器。創業は1916年にさかのぼり、刀鍛冶を源流とする田中一嘉社長の祖父が創業した。東京大学医学部付属病院を中心に医療機器の需要が拡大しており、外国産から国内産への転換が求められていた時代。日本人医師の手の大きさや、その繊細な動き、日本人患者の体格に合わせた機器が必要だったからだ。
 以来、時代とともに機械作業を導入してきたものの、今なお最終工程は手作業にこだわる。微細な精度が求められる医療機器の世界では完全な機械作業は困難だ。発注本数は「多くても30本程度」(田中社長)と多品種少量生産のため、機械化のメリットが少ないことも背景にある。

広がる活躍領域

 同社が毎年製作する機器は約3000種。約半分は医師の要望に合わせたオーダーメードだ。田中社長は、「整形外科医は手先の繊細な手術が要求される。医師の微妙な感覚に応えるため手作業にこだわっている」と話す。医師からも『脊椎周りの繊細な手術は田中医科の機器でないと』との声があるほど。医師から医師へ口コミで評判が伝わり同社の製品は広がってきた。

4代目となる田中一嘉社長


 近年は高齢化の進展に加え患者のQOL(生活の質)を重視することも相まって、身体的な負担の少ない内視鏡手術の増加など、同社製品が求められる手術の機会が増加。実際、伝統的な「鋼製小物」だけでなく、内視鏡メーカーからの引き合いも増えているという。
 

技能継承に成功、職人は30代

 独自技術を売りにする中小企業にとって、技能継承は最重要課題であり、同社とて例外ではない。田中社長は「ここ数年で同業社の廃業が多くなってきた」と語る。こうした中で、同社ではここ数年、中途採用だけではなく、新卒採用にも力を入れ始め、人材の若返りを図ってきた。中途採用では、前職が歯科技師や宝飾関係などのほか、新卒採用においては近年では採用が困難と言われている理系の学生の獲得にも成功している。結果、職人の平均年齢は30代。最近では技術者不足の同業社からOEM(相手先ブランド生産)やメンテナンスを請け負うことも多くなってきているという。
 従業員の要望に応え、職人の独立支援も始めた。製作に必要な道具を用意し、業務委託の形で同社へ製品を納入する。「社会の変化や個人の事情に合わせて、経営スタイルも柔軟に見直していくことが重要。今後はリモートワークなどを活用することで、これまで介護離職を余儀なくされていた社員が時間的・場所的な制約なしに働き続けられるような環境整備にも努めたい」(田中社長)と話す。
 100年もの長きにわたり積み上げてきたノウハウによって医師を支え続けてきた独自の技術力。社会の変化や医療現場からの多様なニーズを反映しながら次の100年に向けて着実に地歩を固めている。
 【企業情報】
 ▽所在地=東京都北区田端新町2-14-18▽社長=田中一嘉氏▽創業=1916年▽売上高=非公表