政策特集令和時代をどう生きる~働き方・学び方 vol.8

新たな学びが僕を変えた

「Reスキル講座」を通じて得たもの

 

AIや機械学習に関する教育事業を展開するキカガク


 高度で実践的なIT関連スキルを持つ人材育成を目指して、経済産業省が2017年に創設した第四次産業革命スキル習得講座認定制度(通称「Reスキル講座」。認定を受けた講座は翌2018年に開講し、2020年4月1日時点で71講座まで広がっている。受講生たちはここから何を吸収し、自身の仕事にどう向き合ってきたのか-。その声に耳を傾けてみよう。

新設組織でAI戦略推進

 同制度は、ITやデータといった今後の成長分野において、社会人が専門性を身に付けキャリアアップを図れるよう、民間の教育事業者が実施する講座を一定の要件に基づき認定するもの。厚生労働省の「専門実践教育訓練給付金」や「人材開発支援助成金」といった制度とも連携し、受講費用の一部を支援。省庁横断で社会人のスキルアップを後押ししている。
 2018年秋に「ディープラーニングハンズオンセミナー」(認定実施機関=日本マイクロソフトおよびキカガク)を受講した田中信伍さん(30)。大手SI企業、電通国際情報サービスのシニアコンサルタント、ITストラテジストとして、主に製造業向けにAI(人工知能)活用を推進する立場にある。机上の理論だけでなく「実際に手を動かすことで、顧客企業の実業務にAIを導入するプロセスを体感したい」と考えたことが受講のきっかけだ。
 講座では実際のデータを用いた画像分類やカテゴリーごとに文書を分類する演習、時系列に特化したディープラーニングなど現場で使える実装力を習得。さらにAIをビジネスに実装する上で必要な知識を求めて「AIビジネスエンジニアリングプログラム」の「KIT AIビジネスアドミニストレータ養成講座」(認定実施機関=金沢工業大学)も2か月にわたり受講。経産省が2019年10月からこの2月にかけて実施した「AI Questプロジェクト」にも参加するなど、社会のニーズや産業構造の変化を見据えた新たな学びに意欲的だ。
 もともと社内でAIに関する有志の勉強会を運営していた田中さん。最新の技術動向はもとより、ビジネスにより広く実装する上で必要な視点を体系的かつ実践的に習得したことで「勉強会は、小規模ながらもチームとして発展する形となりました」。さらに全社横断組織として発足したAIトランスフォーメーションセンターに参画することになった。現在は企業の業務効率化を中心に、AIや定型業務を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)技術の活用提案や業務への実装支援を担っている。

電通国際情報サービスの田中さん

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴って、多くの企業がAIを活用した事業を加速するなか、田中さんの属するSI業界も、これを後押しすることに商機を見いだしている。技術的な専門性とビジネスの視点、双方を併せ持つ人材は引く手あまたになるだろう。

スタートアップの創業メンバーに

 「半年足らずで、こんな展開があるなんて」。自身を取り巻く環境変化に驚きを隠せないのは、データサイエンスに関する入門書を刊行、スタートアップの事業企画にも参画することとなった岩橋智宏さん(45)。きっかけはやはり「Reスキル講座」だった。
 日本IBMを経て、ビッグデータを可視化、分析するBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを提供するTableau(タブロー)日本法人のコンサルタントとして活躍していた岩橋さん。「データから過去の事象を可視化するだけでなく、未来も予測してみたい」との思いから、「自走できるAI人材になるための6ヶ月長期コース」(認定実施機関=キカガク)を2019年に受講した。

スプライングローバルのコンサルタントとして活躍する岩橋さん


 機械学習のモデル構築から、アプリケーション作成まで一貫した流れを習得できるこの講座では、受講生にAIを用いたアプリケーション開発が課せられていたが、岩橋さんが選んだのは自らの学びの成果を、データサイエンスに関心のある人向けに分かりやすく発信することだった。
 「身近なオープンデータでデータ分析に取り組みたいというニーズは広がると感じたからです。『Tableau』というなじみあるBIツールをきっかけに、より多くの人が可視化を超えてデータサイエンスの扉を開いてほしいと考えています」。
 結果、データサイエンス研修事業にも関わることになった。2019年秋に設立されたスプライングローバル(東京都港区)。AIやデータサイエンスは最先端の領域にだけ適用されるものではなく、身近な分野に活用の可能性があると同社を起業した藤松良夫社長と意気投合。書籍に盛り込んだ内容を少人数の講義方式で伝える事業を始めている。
 「AIそのものは、ますます高度化することが見込まれますが、それ以上に求められるのは、それぞれのビジネスの実情にマッチした戦略を立案できる人材です。地に足の付いた『DXナビゲーター』として、僕自身も学び続けていくつもりです」。

岩橋さんらが主宰するデータサイエンスの学習塾


 経産省では、2020年1月からすべての授業をeラーニングで行う講座を「Reスキル講座」の認定対象に拡大した。これにより、時間的、地理的な制約を越えて、より多くの社会人が学びの機会を獲得し、新たなキャリアを切り拓くことにつながりそうだ。