地域未来

ルーツは江戸時代 「湯の花」通じ新たな観光体験を

「みょうばん湯の里」が経営に込めた想い

わらぶき屋根の「湯の花小屋」。この中で「薬用 湯の花」が育つ。職人が製造に携わるのは同社だけという

 日本有数の温泉地として知られる大分県・別府。その湧出量は日本一とされ、市内のあちこちで湯煙が上がる風景が見られる。そんな温泉地でも特徴的な存在として知られるのが、温泉成分を結晶化させた「湯の花」を売り物にしている明礬(みょうばん)温泉だ。

重要無形民俗文化財にも指定

 この地で日帰り温泉やレストラン、土産物販売などを行うみょうばん湯の里は、今年で創業295年という歴史を持つ事業者。2006年に就任した飯倉里美社長は、開祖から数えて16代目に当たるという。
 飯倉社長の先祖で、温泉の効用に注目した脇儀助という人物が、江戸時代に染料や薬品として利用される「豊後明礬」の製造を始めたのが同社のルーツだ。明治時代になり、明礬が海外製品に市場を奪われるようになると、明礬の製造過程で生まれる入浴剤「湯の花」の製造、販売へと徐々に移行していったという。
 やがて昭和の時代となり湯の花の製造、卸を12代目が個人事業として展開。1977年には法人化する。87年には現社長の実父である脇屋長可氏が、湯の花小屋の見学施設、土産物の販売店や露天風呂、レストランなどを備え、現在に引き継がれている施設「みょうばん湯の里」をオープンした。
 湯の花は薬や入浴剤として古くから利用されてきた。明礬地区で培われてきた湯の花の製造技術は、竹やわらで組んだ湯の花小屋の中で、温泉の噴気と青粘土を利用して温泉成分を結晶化して製造する。2006年にはこの湯の花の製造技術が国の重要無形民俗文化財に指定を受け、その文化的価値も広く知られるようになった。

16代目にあたる飯倉里美社長


 1日に1ミリメートルずつしか成長しないという、この小屋を使った湯の花の製造法は、世界でも明礬地区のみだとされる。現在同地区では4社が湯の花を製造しているが、職人が在籍して製造に携わっているのは、同社だけだという。
 湯の里では、湯の花を使ったオリジナル商品や温泉の熱で作った卵やプリンなどの食品が販売されており、休日ともなれば県内外から訪れた多くの観光客でにぎわう。しかしこの温泉地は別府市の中心地から遠く離れた標高350メートルの場所に位置し、決して交通の便が良いとはいえない場所にある。
 かつて別府市長も務めた脇屋氏は、この場所へ人を呼び込むため、「ここでしか買えない商品が必要だ」と、湯の花の歴史をひもとき、自社商品の育成に力を入れた。商品を手に、地元のバス会社やタクシー会社を訪問し、施設への誘客を頼んで回ったという。

質の高い経営あってこそ

 長い歴史を刻み、現在の位置を築いてきた同社だが、飯倉社長は「経営が成り立っていないと技術は成り立たない」と強調する。事業の安定と継続のために、2011年には品質マネジメントシステムの「ISO9001」と環境マネジメントシステムの「ISO14001」という二つの国際規格を取得している。
 環境に配慮しながら高い水準での製品づくりを作っている指標となるこの二つの認証が、「これまで商品のクレームが寄せられたことがない」(飯倉社長)という製品の品質の高さを裏付ける。
 また、日頃から社員に対して「アンテナを広げて自分から飛び込むことの大切さ」を訴えているという飯倉社長。同社では主力商品である入浴剤としての「薬用湯の花」のみならず、皮脂の汚れを優しく洗い落とすせっけんや化粧品、シャンプーなどの商品開発も盛んだ。こうした商品群がインターネットでの普及の波に乗り、口コミでの広がりや通信販売の拡大とともに、国内のみならず、海外からの旅行客からの支持も集めるようになった。
 自然の恵みを生かして事業を発展してきた同社。飯倉社長は「この地域に特化したからこそ、なり得た事業。事業を大きくするより、持続していくことに力を注ぎ、地域に恩返しをしていきたい」と語る。その効用と温泉地を広く知らしめるため、商号を変更し、ひらがなを取り入れたのもその思いの表れだ。
 また自身は「別府・明礬湯の花保存会」の会長を務め、子ども向けの湯の花作り体験会や明礬温泉の歴史を学ぶ「湯の花大人教室」を定期的に開催するなど、湯の花文化への理解を深めるための取り組みを続けている。

「必ず人は帰ってくる」困難に挑む意志

 近年外国人観光客でにぎわっていた明礬地区は、日韓関係の悪化に加え、新型肺炎の影響などで環境は大きく変化した。
 「地域の商売人同士、考え方が違う人がいても、別府観光浮上のためには目標を立てて一体となってやらなければならない」と話す飯倉社長。大きな危機に直面している今だからこそ、その思いを一段と強めている。
 「これまでも東日本大震災や熊本地震などの困難に直面してきた。これを乗り越えた後の姿をイメージし、全員で取り組みたい」。
 「いい温泉があり、いい商品があれば必ず人は帰ってくる」と力強く話すその姿は、別府・明礬地区の再生に向けた強い意志であふれていた。

【企業情報】
▽所在地=大分県別府市明礬温泉6組▽社長=飯倉里美氏▽創業=1725年(享保10)▽売上高=3億5000万円(2019年10月期)